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冨山和彦「ホワイトカラー消滅」 ジョブシフトへの学びを促す

 40代以上のホワイトカラーを中心に、このままでは仕事が失われる見通しを伝え、新しい労働市場への移動を促す。「人手の余剰が続くホワイトカラーは、エッセンシャルワーカーにジョブシフトすることを前提に、新たな中間層を形成することを考えるべき」

 必要なリスキリング(学び直し)が丁寧に説かれていて学ぶところが多かった。大学生や中高生も読むといいんじゃないか。大人の多くは「なんのために勉強するの?」という子どもの問いに上手(うま)く答えられない。でもここには、著者の経験に基づいた答えが熱をもって書かれていたと思う。

 大学を出て働き始めた頃から私がずっと抱いてきたのは、「みんながすごく働いたその先で、社会が空虚なものになってしまうのは一体どういうこと?」という問いだ。

 日本人は本当によく働く。先進国の中でも低い労働生産性は、個人でなく産業や組織の構造的課題だろう。手を抜く人もいなくはないが、真面目に働いている人の方がずっと多い印象がある。しかしその結果である社会には空虚さが漂っていて、減る気配がない。鬱(うつ)を抱える人も、若い自殺者も多い。それはなぜか。どうすれば解消できるのだろう、という問いの答えは、この本の中からまだ見つけ出せずにいる。

 国富が増せばいいのか。経済的に豊かになったところで心が満たされるわけじゃないことは、この社会は数十年前に体験済みだ。更に働く意義は、サバイバルにすぎないのか。先の質問になぞらえると「なんのために働くの?」という問いに、企業も国もまだ答えられずにいると思う。

 でも本の中に答えを探すのは間違っているかもしれない。人生を通じてそれぞれが体験し、自分の姿を介してわかち合ってゆくしかない気もする。

    ◇

 NHK出版新書・1133円。24年10月刊、10刷3万3500部。読者の男女比は3対1で男性が多く、年齢は主に30~50代。「生成AIの進歩でホワイトカラーの仕事が不要になるという不安感や焦燥感に論拠を示している」と担当者。=朝日新聞2025年9月27日掲載