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韓国SFの旗手が描く異世界「この世界からは出ていくけれど」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『この世界からは出ていくけれど』 キム・チョヨプ著 カン・バンファ、ユン・ジヨン訳 ハヤカワ文庫NV 1210円
  2. 『まず牛を球とします。』 柞刈湯葉(いすかり・ゆば)著 河出文庫 1078円
  3. 『旅する小説』 宮内悠介、藤井太洋、小川哲、深緑野分、森晶麿、石川宗生著 講談社文庫 990円

 スマートフォンの普及やAIの加速度的な進化により、現実がSFに追いついた、と言われるようになって久しい。しかし、現代のSFはいつだって、未来世界の、今とは異なる現実を見せてくれる。

 (1)は韓国SFの旗手として知られる著者の短編集だ。巨大文明の痕跡が確認された遠宇宙の惑星でうごめく機械たちの謎、人類のプロトタイプをコールドスリープから目覚めさせた社会で巻き起こる恐慌、謎の生物オーヴを怖がる惑星ベラータの奇妙な信仰……。紛れもない異世界の中に、現実との共通点を多々見つけ出せる感覚が面白い。

 (2)は奇想天外、を地で行くSF短編集だ。「東京都交通安全責任課」は、AIが人間の仕事をことごとく代替するようになったら、人間の仕事は何が残るのか――という設問を出発点に、綺麗(きれい)なオチが付く。ただし、基本は奇想が奇想を呼び、最後は遠くへと放り出される短編揃(ぞろ)い。

 (3)はSFテイスト強めの作家が揃ったアンソロジーだ。小川哲の「ちょっとした奇跡」が格別素晴らしい。地球の自転が止まり地上に住めなくなった世界で、人類は二つの船に分乗して生き延びていた。十四歳の少年マオは、もう一つの船に乗る同い年の少女リリザと「交換日記」をしていて……。どんな未来においても、人が人と出会うこと、コミュニケーションを交わせることの喜びは、かけがえのないもの。

 未来を知ることは、今を知ることでもある。SFの醍醐味(だいごみ)がギュッと詰まった三冊だ。=朝日新聞2025年9月27日掲載