ISBN: 9784909044648
発売⽇: 2025/09/20
サイズ: 17.8×1.5cm/232p
「本が生まれるいちばん側で」 [著]藤原印刷(藤原隆充・藤原章次)
いや、これは、ちょっとなんだか、ええと、胸が熱くなるじゃないか。
著者は松本市にある印刷会社を切り盛りする兄弟。例えばそこにあなたが本を作りたいと相談に行ったとしよう。旅行の記録、小説、自慢のコレクション、内容はなんでもいい。ここから始まるのは、言わば本というモノ作りのDIYだ。本のサイズ・形、装丁、本文のレイアウト、字体、紙の種類、綴(と)じ方、印刷の色、こうしたことを自分で決めていく。もちろん藤原さんたちがアドバイスするが、決めるのはあなただ。予算は相談に応じる。そしてあなたの思いを閉じ(綴じ)こめた本をあなた自身の手で作り上げる。
思いが強いと無茶ぶりもする。ケイタタさん著の写真集『隙ある風景』では、表紙の紙を中古のダンボールにしたいと言ってきた。それでむしろ燃えるのが藤原兄弟である。そうしてどんな本ができて、実はけっこう売れて、といった話もしたいが、もうひとつの話をぜひしたくなる。
著者は大学生のとみたみずきさん、『300年前のこと』。タイムカプセルのように、いまの自分を本に閉じ込めておこうと思った。だけど、お金がない。バイト先の風呂屋の横に「おねがいばこ」を設置して出資を求め三万六千円。それに貯金を足して五万七千円。オンラインでの打ち合わせを終え、いよいよ松本へ(当然各駅停車で)。ついに印刷、製本。本ができてくる。それをいそいそと箱に詰める(当然自分で持って帰る)。そうしたらその作業を見守っていた職人が、彼女の思いを感じたんだろうなあ、「これ、1冊もらってもいい?」と言う。そのときのとみたさんの気持ちを考えると、いや、なんだかちょっと、じーんとなるじゃないか。
そして、そんな彼らの強い思いを全身で受け止め奮闘する藤原兄弟の姿にも、私は感じ入った。読後、「捨てたもんじゃないな」とつぶやいて、顔を上げたさ。
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ふじはら・たかみち 1981年生まれ▽ふじはら・あきつぐ 1984年生まれ。ともにベンチャー企業を経て長野の家業を継ぐ。