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「僕の人生も変わるんだ」書評 困難校の4年で見いだした希望

評者: 秋山訓子 / 朝⽇新聞掲載:2025年11月01日
僕の人生も変わるんだ 著者:竹村登茂子 出版社:文理閣 ジャンル:教育・学参・受験

ISBN: 9784892599712
発売⽇: 2025/03/30
サイズ: 18.8×0.9cm/120p

「僕の人生も変わるんだ」 [著]竹村登茂子

 「対話」が大事だとあちこちで言われ、教育現場でも力を入れている。この本に注目すべきなのは、中退が2割に上る「困難校」を取り上げていることだ。彼らにこそ「対話」が必要だが、教えるのは並大抵ではない。
 規範意識が低く「人の話が聞けない」「人の思いがわからない」「自分の思いを伝えられない」生徒。何とかしたいとコミュニケーションコースを設けた大阪府立高校を4年間観察した記録だ。
 対話を始めて深化させるには方法論がある。円になって座り、互いの顔を見て、時には体を動かしながら心もほぐしていく。言葉を言い換えると印象ががらりと変わること。表情や態度でも伝えられること。違いはケンカのもとではなく新しい視点であること――。教師は「自分と未来は変えられる」と語りかける。
 生徒間のもめ事には生徒の「メディエーター」(仲裁役)が入り、双方の言い分を聞く。安易に解決策を提示せず、もめ事の原因を探り双方が納得できる地点を探す。
 数字で示せるわかりやすい成果がすぐ出てくるわけではない。しかし。いじめから不登校となり、「学校にはもう期待してなかった」が、コースを取って話すことがあまり怖くなくなり、みんなが共感してくれたことが「ものすごく自信」になり生徒会長に立候補し当選したA君。人との会話が成立しなかったB君は、自分を理解してもらえないから人を理解しようとしなかったが、授業で相手のことを考える重要さに気づく。「気をつければ、僕の人生も変わるんだなあ」。まさに自分と未来を変えたのだ。
 活字化には多くの制約があったと想像する。生徒が将来を見つけるまでの教師の試行錯誤は、大変だったろう。あきらめず、辛抱強い積み重ねが変革を生み出すのだ。
 この高校は閉校に。最終章に記された日本の学校の現状は絶望的でもある。しかし、やり方次第で希望は見いだせる。この記録にあるように。
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たけむら・ともこ 1958年生まれ。大阪芸術大客員教授、名古屋市立大特任教授。元読売新聞編集委員。