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「図書館、山へ分け入る」書評 穏やかでまっすぐな たたかい

評者: 石井美保 / 朝⽇新聞掲載:2026年06月20日
図書館、山へ分け入る 著者:青木海青子 出版社:晶文社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784794980526
発売⽇: 2026/04/24
サイズ: 19×1.6cm/244p

「図書館、山へ分け入る」 [著]青木海青子

 奈良の山中で、私設図書館「ルチャ・リブロ」を営む著者のエッセイ。
 街の生活に疲弊し、家人とともに山に逃れた著者は、そこに誰しもに開かれた思索の場を創りだす。柔らかな文体で綴(つづ)られた社会批評であり、癒えない痛みの中にあっても「自分自身の生活を送る」ための、著者の模索の記録でもある。
 なかでも印象深いのは、「見立て」をめぐる著者の気づきだ。ある日、著者はいつものように図書館を開け、来館者を待っていた。夕刻に閉館してから、今日は休館日だったと気づく。そしてそのとき、著者は「これがルチャ・リブロの本質だ」と悟る。「ここは図書館である」という見立ての下に、場所を整えて誰かを待つこと。そんな見立てが自分を支え、他者や世界とのつながりを創りだしている。
 さらに著者は、「場」のありようにも思いをめぐらせる。私蔵本を貸し出すことを「優しい」などと評価されることに、著者は違和感を拭えない。ある場所が、そもそも「人を思う」ものとして作られているとき、そこで発揮されるのは個人の資質としての「優しさ」などではなく、その環境を生かすプロとしての技量である。それを「優しさ」に還元することは、そうした場の存続を構造的に支えず、個人の自助努力に任せることにもつながりかねない。それはいま、あちこちで起こっていることだ。
 私設図書館を営むことは、そうした場を守り、その消滅に抗(あらが)う試みでもある。誰もが自由に集い、安心して惑い、言葉を交わしあえる場所を。
 山の中から発せられるひとつひとつの問いは重いけれど、文章の佇(たたず)まいは静謐(せいひつ)でみずみずしい。それは著者の暮らしを取り巻く山の空気が、本書にも流れているからだろう。こんな風に、人は穏やかに、深い気遣いをもって、まっすぐにたたかうことができる。野草の花束のようにさりげなく、じんわりと勇気を与えてくれる本だ。
    ◇
あおき・みあこ 1985年生まれ。大学図書館勤務を経て奈良県東吉野村に私設図書館を開く。共著に『彼岸の図書館』など。