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大坂夏の陣を舞台に多様な味わい「首ざむらい」 武川佑が薦める文庫この新刊!

  1. 『首ざむらい 江戸妖かし綺譚(きたん)』 由原かのん著 文春文庫 902円
  2. 『我拶(がさつ)もん』 神尾水無子著 集英社文庫 792円
  3. 『鬼にきんつば 七つの刻鐘(ときがね)の幽霊』 笹木一(いち)著 新潮文庫 737円

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 新人作家の注目作を紹介。短編集(1)の表題作は大坂夏の陣直前、叔父を訪ね大坂に向かう主人公小平太が、首だけとなった若侍に遭遇する。酒が大好きな若侍(の生首)を呆(あき)れつつ受け入れる小平太、二人の道中がユーモラスだ。一転後半は小平太目線で大坂城落城の悲惨を書き、一編で多様な味わいがある。武士の周縁にいる半端者、疑似的な父子、怪異の存在など各短編に共通したモチーフは、今後も濃く突き詰めてほしい。

 江戸で大名の駕籠(かご)を担ぐ陸尺(ろくしゃく)、桐生が主人公の(2)は、刹那(せつな)的かつ粋に生きる江戸者のべらんめえ口調が風通しよい。なかでも深川芸妓(げいぎ)の粧香(しょうか)のいい女っぷり! 実在のある大名(小説のような真〈まこと〉のエピソード!)と桐生の邂逅(かいこう)、さらに信濃と関東を襲った寛保2年の風水害「戌(いぬ)の満水」を扱って物語に奥行きがでた。洪水で知己を助けられず見栄が剝がれ落ちた桐生が、失ったものを見つめ立ち直ろうともがく様はいまも自然災害に翻弄(ほんろう)される我々の胸を打つ。

 (3)は、仁王さまに見間違われる強面(こわもて)だが甘味好きで幽霊が怖い同心と、幽霊が見える美貌(びぼう)の僧侶、凸凹バディの時代ミステリーのシリーズ2作目。もちろんこの巻から読んでも大丈夫。借家でひっそりと死んだ浪人と惨殺された若侍。二つの事件を丹念に解き明かしていく二人の軽快なやりとりが心地よい。法に裁かれぬ邪、秘めた誠、人の世のやるせなさを菓子の甘さがほっと包む。シビアな商業出版の世界で大きく羽ばたこうとする才能をいち早く見つけ、作者と作品たちをぜひ応援してほしい。=朝日新聞2026年6月6日掲載