- 『映画誌への招待』 四方田犬彦著 岩波現代文庫 1474円
- 『東京都同情塔』 九段理江著 新潮文庫 605円
- 『プロパガンダ入門』 ネイサン・クリック著 渡会圭子訳 ちくま学芸文庫 1540円
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読むことは、批評意識を涵養(かんよう)する。自身を疑うところから、世界は拡張されてゆく。
(1)は、『映画史への招待』として一九九八年に刊行されたものが、文庫化にあたり追補がなされ、題名の「史」は「誌」に改められた。本書が俯瞰(ふかん)的な視点による「史」的概括ではなく、著者の卓越した観点による「私」的であり「誌」的な一冊と分かる。特に「ファシズムの魅惑」項目における、大衆扇動に映像が用いられたことや、映画には悪役の存在を必要としたことの功罪が仔細(しさい)に述べられている点に注目した。自身の観(み)ているものを正義であると妄信する私たちに必須の一冊である。
このような物事における表裏あるいは功罪は、東京という都市にも表れる。煌(きら)びやかさと空虚さという対比構造である。(2)は、小説の形態によって都市に渦巻く欲望を描いた。新たな東京小説を提示したとも換言できるだろう。塔という建築のモチーフに、人間の身体性を反映させ、欲望のメタファーとして機能させている。壮大なテーマに惹(ひ)かれる一方で、感情を動かし、読後になにかを狂おしいほどに求めたくさせる、まさに欲望を喚起させる文体にこそ、無二のものがある。
欲望は、宣伝を語る上で外せない要素である。負のイメージが先行しているプロパガンダという語句に対して、(3)は入門書として、先入観を排し多角的な解説がなされている。他者へ伝えることをより考えたい読者へ薦める一冊だ。
欲望の生き物である人間とは何か。問いを重ねたい。=朝日新聞2026年6月20日掲載