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「人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと」書評 「売買春」反転 浮かぶ非対称性

評者: 吉川トリコ / 朝⽇新聞掲載:2026年06月13日
人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと (単行本) 著者:藤谷 千明 出版社:中央公論新社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784120060175
発売⽇: 2026/03/24
サイズ: 2.5×19.1cm/192p

「人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと」 [著]藤谷千明

 女が金で男を買う小説を書いたことがある。「男女逆だったら炎上案件」という感想(男が金で女を買う話などすでにごまんとあるのに?)をネットで見かけたが、金で性を買う行為そのものの加害性について作中で回収できなかったことを指摘する声はほとんどなかった。小説は正しさを書くものではないし、回収する必要があるとも思わないが、なんとなく引っかかり続けていた。そこへ、あらわれたのが本書だった。
 タイトルどおり、女性用風俗を利用した著者が、「これは搾取なのでは?」と感じたところからはじまるドキュメントである。加害者意識を抱えたまま推しの「セラピスト」を呼び続けていくうちに、いつしか著者はこの体験を「書きたい」と思うようになる。〈「書きたい」の速度は、性衝動のそれに似ている〉と著者は看破する。もしかしたら性欲よりも厄介かもしれない、と。
 フェアとはなにか。どうしたら「正しく」いられるのか。とはいえ人間は「正しい」ばかりではいられない。性欲と寂しさのちがいとは。彼らは金でなにを売り、自分はなにを買ったのか。
 性風俗に従事する男女や周辺の人々への取材を重ね、内省的に書かれた本書は、ともすると同じところをぐるぐるまわっているだけにも見えるが、書くことの暴力性に自覚的であればあるほどそうならざるをえないのだろう。「わかった気」になって、安易な結論を出さない著者の姿勢は誠実で、同時に切実な光を見るようでもある。
 それにしても売買春はいつだって「売る側」の女の問題とされてきたのに、女が「買う側」にまわったとたん、今度は搾取への反省がはじまるなんて、この非対称性はいったいどうしたことだろう。本書ではその一端にも触れられているが、これまで社会全体が男の性欲を軽く扱い、見下してきたためではないか、という推察には目が覚めるようだった。
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ふじたに・ちあき 1981年生まれ。フリーライター。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』など。