ISBN: 9784103145370
発売⽇: 2026/04/22
サイズ: 17×2cm/232p
「筒井康隆、九十歳のあとさき」 [著]筒井康隆
筒井さんの『自伝』を読んだあと本書を読んだら、最晩年の驚異の食欲美食で、愛妻光子さんと二人三脚で東京と神戸を股に掛けて超高級レストランで一晩数万円から十数万円の驚嘆支出、1年間で預金残高から1千万円が消えた。ヤバイ。急遽(きゅうきょ)「老耄(ろうもう)美食日記」を「老耄倹約日記」に切り替えるも、行く先は高級スーパー、ここでも贅沢(ぜいたく)を超越した爆買い!
そんな折も折、筒井さんは2024年3月23日に自宅で転倒して救急搬送。生活の舞台は突然、高級老人ホームとなり「一夜にして車椅子の文豪」に変身。「酒まで禁止されたらあとに残る楽しみは死ぬことだけだ」とうそぶく妄執的生命力は衰えを知らず、老人ホームから介護タクシーで再び偽悪的食欲生活へ。
身体の衰え、深刻な病に侵されながら、読者を引っ張り回す狂気の筒井康隆は神か悪魔か道化か。その食欲と金銭支出欲の人間学にある自我という個性から入って個という普遍の獲得によってのみ成立する天才性は、そんじょそこらのエセ知的教養人のしみったれには真似(まね)できません。裸で生まれ、肉体の破壊に至り、裸で死ぬ覚悟は空洞人間筒井康隆の真骨頂。すっからかんになるまで吐き切る筒井人間学に伴走できるのは食友の光子夫人以外誰がいますか?
生きること、書くこと、食うことをエンターテインメントにした筒井康隆こそ、真の創造者。筒井さんのあの『自伝』での驚異の記憶力は、食欲、金銭支出欲にも通じるエネルギーがあり、『自伝』の語るきちんとした人生の足跡は、筒井康隆式延命術の秘訣(ひけつ)であり、そして本書こそハードボイルドの遺言書でもあります。
最後のほうでふと覗(のぞ)かせる、愛息の霊夢に現れる寂寥(せきりょう)感の不思議さは、いずれ再会するであろう一人息子の伸輔さんへの思い。筒井さんは役者でもある。本書は筒井康隆を壮絶に演じ切った稀有(けう)な、仏道も恐れる悟りの書でもあります。
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つつい・やすたか 1934年生まれ。作家。『モナドの領域』で毎日芸術賞。著書に『筒井康隆自伝』など。