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「時間を哲学する」書評 奥深い謎に迫るための道具立て

評者: 古田徹也 / 朝⽇新聞掲載:2026年06月27日
時間を哲学する:思考のためのツールボックス 著者:平井靖史 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:哲学・思想

ISBN: 9784766430936
発売⽇: 2026/04/21
サイズ: 19×2.5cm/314p

「時間を哲学する」 [著]平井靖史

 時間とは何か。それは人間にとって最も深い謎のひとつだ。たとえば、時間は誰にとっても常に均質に流れているはずなのに、ゲームをしている際には一瞬で流れ去り、退屈な会議の場では異様にゆっくり流れるように思える。これをどう理解すればよいのか。――時間論は、古くから数多(あまた)の哲学者が向き合ってきた領域であり、哲学の華とも言えるだろう。
 しかし、その長大かつ多様な軌跡を追うのは至難だ。個別の哲学者の時間論をひとつひとつ消化し、さらにそこから、時間という概念について包括的な理解を得るというのは、哲学の専門家ですら高いハードルと言わざるをえない。そのハードルを相当に下げてくれるのが本書だ。
 本書はまず第Ⅰ部で、主に西洋の古来の時間論を参照しつつ、現代の自然科学や言語学などの成果もふんだんに取り入れながら、時間とは何かを考えるために欠かせない基本的な道具立てを導入する。このパートは非常に密度が高く、読み通すのはなかなか骨が折れるが、その苦労は後で十分に報われる。
 続く第Ⅱ部では、現代における哲学的な時間論の礎を築いた5人の人物の議論が順に扱われる。ここで、第Ⅰ部で頭に入れた道具立てが縦横に活躍することになる。とっつきにくい彼らの議論をそれぞれ理解するための大きな助けになるだけでなく、彼らの議論同士を関連づけるための、いわば接着剤の役割も果たしてくれるのだ。
 終盤に収録されている13本のコラムも含め、本書の全体を読み通せば、意識、記憶、予測、自由など、私たちにとってごく身近な事柄が、時間というものといかに深く結びついているかが見て取れるだろう。また、のみならず、これらの事柄に対する捉え方自体も大きく揺さぶられるだろう。本書は、私たちの思考をそのように揉(も)みほぐし、新たな視点へと誘(いざな)ってくれる、実に頼もしいガイドである。
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ひらい・やすし 慶応大文学部教授。著書に『世界は時間でできている ベルクソン時間哲学入門』など。