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「獄に暮らせば」 好奇心と冷静さで何でもござれ 朝日新聞書評から

評者: 御厨貴 / 朝⽇新聞掲載:2026年07月11日
獄に暮らせば: 「21年7カ月の獄中日記から」 著者:重信 房子 出版社:作品社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784867931486
発売⽇: 2026/06/03
サイズ: 13.7×19cm/352p

「獄に暮らせば」 [著]重信房子

 日記である。あの元赤軍派の重信房子の20年余の獄中生活を、こと細かに書き記した生きる記録だ。
 何が面白いと言って、実に明確なる好奇心を持って、獄中のハード、ソフト両面にわたる出来事を、第三者が描くように冷静に記載していることだ。無論、権力と闘う意思に変わりなく、重信にとって合理的な獄中生活をおびやかすものに対しては、刑務官であれ伝達事項であれ、徹底的に抗弁し抗議する。
 ただ重信のクールな対応がすごい。言うだけ言うも、ダメなときは次の機会を待って一時撤退。カッとなって一時の感情に身を任せることはしない。そのための生きるすべなのであろう。毎日の獄中生活をあくまでもきちんと獄の行事や日常の歳時記通り、それこそ淡々とすごしていく。日記には、重信の生活や草花をあしらったイラストや短歌が添えられている。
 「寝そべって世界の変化夢想する失業中の革命家あり」「判決は終わりにあらず始まりとまつろわぬ意志ふつふつと湧く」。いや、闘志をかきたて、歌にするのだ。
 でも、重信は実に獄中生活を器用に受容できるものは受容して生き抜いていく。食事、体操、コーラスなど、何でもござれ。それらを全部生きる糧にしていくのだ。とはいえ彼女は健康ではない。何度もがんという病気に襲われ、それと闘わねばならぬ。
 日記は、裁判とがん治療と獄中暮らしに大別される。裁判10年の記録は、それでもピリピリした感じが強い。余裕がなく、あれこれ考え、外の支援者との接触、それこそ検察や裁判への対峙(たいじ)に明け暮れる。外からの激励の言葉がいかに力になるか。刑務当局との闘争がいかに精神を鍛えるか。長文の日記からわかる。
 10年あまりの受刑生活は、いかに日々を快適に暮らすかという側面と、がん治療のために繰り返す病床生活の側面とに分かれる。獄中でのハイライトは運動会。その余裕が堂に入っている。楽しめるものはとことん楽しもうという精神なのだ。でも、それに密着するごとく、大腸がん、小腸がん、子宮がんという病気との闘いがある。医療日記のごとく、医師とのやりとり、手術の様子がこと細かに記される。患者の目というより、医療の伴走者の冷静な目だと言ってよい。「クレゾールの匂う廊下を足早に看守に連れられ医務へと急ぐ」
 重信房子とは何であったのか。赤軍幹部としての活動で有名だが、「獄に暮らせば」どう生き抜けられるのかを堂々と公開する。一人の人間としてのあり方が、よく見えてくる。
    ◇
しげのぶ・ふさこ 1945年生まれ。元日本赤軍最高幹部。71年出国、パレスチナ解放闘争に参加。2000年逮捕。「ハーグ事件」の殺人未遂などの罪に問われ、懲役20年の判決を受け服役。22年出所。