1. HOME
  2. インタビュー
  3. 岩阪恵子さん詩集「一羽」 詩を書くことが生きること

岩阪恵子さん詩集「一羽」 詩を書くことが生きること

岩阪恵子さん

 岩阪恵子さんの新しい詩集「一羽」(思潮社)が刊行された。野間文芸新人賞に選ばれた「ミモザの林を」(1986年)や紫式部文学賞などを受けた「淀川にちかい町から」(93年)といった小説作品、あるいは小出楢重や木山捷平の評伝で知られてきたが、近年は詩人として新たな創作を重ねている。

 詩集の刊行はここ10年で3冊目。今回も、文を行ごとに区切る「行分け」をしない、散文に近い形の作品が並ぶ。けれどそこにはやはり、エッセーのようなものとは性格が違う、やわらかなリズムと詩情が息づく。

 「25歳ぐらいから60歳ぐらいまで小説を書いていたから、自然に書くと行分けの詩にならないんです。でも、無理に行分けにすることもないと思って。できるだけ少ない言葉で、できるだけ正確に自分の気持ちを表現しようと思ったら、こういう形になりました」

 詩集のタイトルにもなった詩「一羽」は、「たっちゃん池にカイツブリが一羽。このところずっと一羽きり。」と始まる。

 自宅の近くにある池を訪れては去っていく鳥たちを見つめる詩人の視線は、ていねいでやさしい。多くの詩に、自然のこまやかな時間の流れ、そして自身が過ごしてきた人生の時間への意識がにじむ。

 芥川賞も受けた詩人・作家の夫、清岡卓行が亡くなってから、今年で20年になった。

 「あのとき体重がずいぶん落ちて、なかなか元に戻らなくて。別に体力のせいにするわけじゃないけど、やっぱり当時は書く体力も気力もなかったかな。最初の10年は、清岡の遺稿集や論集成を出すのに一生懸命だったんですけど、この10年はほぼ自分のために毎日を過ごしています。今はもう書くことが生きることと同じなので、とにかく生きている間は書きたい」

 小説家としてデビューする前にも、詩を書いていた。「小説は、清岡に勧められて書いたんです。詩はお金にならないからと。女は詩よりも小説のほうが向いているというのが、清岡の意見でもありました。今そんなこと言ったら猛反撃されますけど、当時はあんまり言われるので、じゃあ書いてみようかと思って。でも私は、やっぱり詩を書きたい。今はこれまででいちばん楽しく書いています」

 6月に80歳の誕生日を迎えた。「年をとるのはいいなって思うんです。いろんなことがよくわかってくるし、よく見えてくる。自分なりに、人間がちょっと丸くなったような気もするし」。肩の力の抜けた、やさしいユーモアが作品の随所に感じられるのは、そんな心境の表れでもあるのだろう。

 長く創作と向き合ってきた人の円熟と、書くことのみずみずしい喜びと。ページをめくるごとに、静かで豊かな言葉がある。(編集委員・柏崎歓)=朝日新聞2026年7月15日掲載