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書評委員の「夏に読みたい3点」④吉田裕さん、秋山訓子さん、竹石涼子さん、山中季広さん、中村真理子・読書編集長

一橋大学名誉教授 吉田裕さん

①餓死(うえじに)した英霊たち(藤原彰著、ちくま学芸文庫・1210円)
②南京事件 新版(笠原十九司著、岩波新書・1232円)
③戦没者遺骨収集と戦後日本(浜井和史著、吉川弘文館・1万450円)

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 戦前の日本で徴兵検査を受けた最後の世代は1926年生まれだから、存命であれば、今年百歳ということになる。戦争の記憶が薄らぐ中で、戦争についてあらためて考えてみたい。①によれば、アジア・太平洋戦争の戦没軍人の実に半数以上が、戦死者ではなく病死者・餓死者だった。
 他方で、日本軍による戦争犯罪の研究も進展している。その到達点を示しているのが②である。日本・中国・欧米の史料を精査しながら、南京大虐殺の実態を解明した著作だ。
 「戦後」の問題を考えるうえで手掛かりとなるのは、海外で戦没した240万人の軍人のうち、いまだに半数に近い遺骨が遺棄されたままだという現実だろう。③は、遺骨収集事業の歴史を追いながら、政府の責任を浮き彫りにする。

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朝日新聞社GLOBE編集部記者 秋山訓子さん

①白旗の少女(比嘉富子著、講談社青い鳥文庫・748円)
②はだしのゲン 全7巻(中沢啓治著、中公文庫・各836円)
③霧のむこうのふしぎな町 新装版(柏葉幸子著、講談社青い鳥文庫・748円)

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 夏休み。子ども向けだが、大人になってからこそ読み返したい本を。①は沖縄戦を生き延びた少女の物語。彼女を助けたのは、四肢を失ったおじいさんと、目が不自由なおばあさん。2人が少女に託した白旗は何で出来て、どうやって作ったものだったか。②描写が悲惨すぎる? ショッキング? とんでもない。作者が言っている。「実際はこんなもんじゃなかった」「極力残酷さを薄めるようにしてかきました」。今の時代だからこそ向き合わねば。③私事でご容赦。7歳の誕生日プレゼントにもらったのがこの本。ファンタジーの楽しさに開眼! 何十年も後に、「千と千尋の神隠し」に影響を与えた。とびきりおいしくて太らないお菓子、ピエロの柄の水玉の傘、今でもほしいなあ。

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朝日新聞社くらし科学医療部記者 竹石涼子さん

①ヒトラーに抵抗した女性たち(遠藤孝夫著、彩流社・3080円)
②善良なウイルス 世にも数奇なファージ医療の歴史(トム・アイルランド著、野中香方子訳、文芸春秋・2970円)
③地震災害と地震学 被害・観測・研究の1400年(松浦律子著、吉川弘文館・4180円)

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 ①は、ナチスによる恐怖が熱狂に支えられるなかでも、隣人を、知人を、教え子を支えるために信念を貫き、戦後まで生き抜いた市井の女性たちの姿。左遷され、ゲシュタポに逮捕されても、力で逆らわずとも屈しない、静かな抵抗の記録だ。
 薬剤耐性菌による感染症で命を落とす人が増えている。②は、隠れたパンデミックへの切り札として再評価され始めた、謎のファージ療法の数奇な100年を読み物仕立てで。
 地震は古くから、暮らしと深く関わり、時に歴史を変えた。③は理学と歴史の双方からあえて俯瞰(ふかん)する。さらには、季節による避難の注意点や地域による津波の特徴など、実用的な情報もある。色々な読み方ができる百科事典的面白さがある。

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朝日新聞社編集委員 山中季広さん

①ウは宇宙船のウ 新訳版(レイ・ブラッドベリ著、中村融訳、創元SF文庫・1320円)
②ソラリス(スタニスワフ・レム著、沼野充義訳、ハヤカワ文庫SF・1760円)
③横浜駅SF(柞刈湯葉著、カドカワBOOKS・1320円)

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 暑すぎて脳が溶けそうな日は、わたし的にはマジでSF一択。舞台設定が涼やかに壮大ならなお最強です。3冊ともコミック化されており、漫画版を先に読むのも全然ありかと。
 宇宙に憧れる少年を描いた米作家ブラッドベリの①は、15分もあれば読める短さ。それを萩尾望都さんが美しく漫画化した作品は1978年の発表で、小学館文庫に所収。
 ②はポーランドの作家レムが61年に発表した名作。海が意思を持ち、人の知性を超える。深遠かつ難解な小説が昨年ついに漫画化されて話題に。森泉岳土さんの偉業。
 ③で意思を持つ生物として描かれるのは何と横浜駅。駅が勝手に自己増殖し、本州を支配するという設定がアブナすぎ。新川権兵衛さんの漫画版も秀逸です。

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中村真理子・読書面編集長

①百年の散歩(多和田葉子著、新潮文庫・693円)
②すべて真夜中の恋人たち(川上未映子著、講談社文庫・814円)
③遠くまで歩く(柴崎友香著、中央公論新社・2090円)

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 今週は通常の書評をお休みして、書評委員が選ぶ「夏に読みたい3点」をお届けします。

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 夏は朝5時に犬に起こされて散歩へ。近所の家々を目にしながらあれこれもの思う。小説でも散歩は豊かな時間を与えてくれる。①はドイツ・ベルリンの通りを歩く連作長編。すれ違う人が不思議な世界へ誘う。出会いが多いのに、会いたい人は来ない。言葉遊びの寄り道が楽しい。②の主人公は毎年、誕生日の夜にひとりで散歩をする。この印象的なシーンが不器用なふたりの恋愛の重要なアクセントに。③はコロナ下で始まる物語。会えない日々にオンラインの緩やかなつながりが生まれる。思い出の場所を写真や言葉で共有すれば、一緒に長く歩いてきたよう。散歩という営みの深さを思う。

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」①はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」②はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」③はこちら