【丸善丸の内本店児童書担当・兼森理恵さんのおすすめ】
「はなび」
なぜ夏は、特別な季節に感じるのだろう。五感を通して記憶に残る「体験」が多いからかもしれない。
朝ごはんを終えて外に飛び出す。ぐんぐん昇る太陽、蒸し蒸しする空気、公園に響くサックスの音、喉(のど)を滑り落ちる水分たっぷりの真っ赤なスイカ。夏をぎゅっと詰め込んだような一日。でも、まだ終わらない。やがて、夕食の匂いが漂い、夜がやってくる。夜空に向かって放たれる、第一声をじっと待つ。今日は花火の夜。何げない夏の風景の多幸感と特別な時間を待つ高揚感が描かれる。
もう終わりかと空を見上げたその瞬間、打ち上げられたフィナーレの花火のページは圧巻。目を閉じると瞼(まぶた)の裏には光の粒が溢(あふ)れる。記憶に刻まれた夏の特別な風景が鮮やかに広がる。
夏の感触が細胞にダイレクトに伝わってくる。湿った空気や肌にまとわりつく熱、夕暮れの気配、夜空を照らす光。ページをめくるたび五感が呼び覚まされていく。そして気づけば、物語の中の夏が自分だけの夏の記憶と重なる。五感で読む、特別な夏を体験できる絵本だ。
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マシュー・バージェス文、カティア・チェン絵、万木森玲訳、岩崎書店、1870円、5歳から
【ちいさいおうち書店店長・越高一夫さんのおすすめ】
「フェザー」
12歳の少年ヒューは認知症がはじまったおばあちゃんが日に日に不安定になっていくのが心配だった。おばあちゃんの心に引っかかっているのは、第2次世界大戦で戦死したという兄・ジョニーのことだと考えたヒューは、夏休みに彼について調べることにした。すると思いもよらなかったことがわかってくる。そこには家族の秘密が隠されていたのだった。作中に何度か登場する白い羽根の意味がわかるにつれ、本当の勇気とは何かと考えさせられた。
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マノン・ステファン・ロス作、野沢佳織訳、静山社、1650円、小学校高学年から
【絵本評論家・広松由希子さんのおすすめ】
「おとまりペンギン」
初めて泊まりに来たペンちゃんを、なずちゃんは張り切っておもてなし。でもペンちゃんが「あそびたくないの。おうちに かえりたいの」と、めちゃくちゃ散らかし始めたからパニック。「だめえ!」。おしりで「どーん!」と突き飛ばしたら、ペンちゃんは「ぴゅーん」と滑っていき? 胸が「しゅん」として「すん」となったり、「どーん」で一気にうちとけたり。幼児の衝動と心の機微をつかむオノマトペ。シュールな設定も生き生きと温かな生活感で彩る絵。とびきり愉快なお泊まり体験をいっしょに。
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ねじめ正一文、降矢なな絵、童心社、1870円、3歳から
=朝日新聞2026年8月29日掲載