ZON・著「ニーハオ、おいしい東京日和。」 やわらかに描く故郷の味と哀歓
オープニングは主人公(≒作者)が早朝から行列に並ぶ場面。列の先にあるのは人気の飲食店――ではなく東京入管の窓口だ。中国人であるがゆえに定期的に在留カードを更新せねばならない主人公は、無事に新しいカードを受け取りホッとするとともに空腹を感じ、突如“本場の包子(バオズ)食べたい欲”に駆られる。そこで地元商店街の中国人経営の店で買った包子を食べるシーンが、しみじみとうまそうなのだ。
ほかにも隅田川花火大会の屋台のジェンビングオズ(クレープのような皮で具を包んだ軽食)、深夜の新小岩の担々麺、高田馬場のマーラータンといった異国で食べる故郷の味(担々麺は本場とは別物らしいが)と外国人の東京暮らしの哀歓、草の根の異文化交流が、現実と詩情を交えて描かれる。潮干狩りのエピソードで「中国人のマナーが最悪だ!」と悪態をつくじいさんも登場するが、単なる悪役では終わらない。素朴でやわらかな描線は国籍や文化の違いを大らかに包み込む。
外国人の在留資格更新手数料や経営・管理ビザの資本金要件が大幅に引き上げられ、排外主義的言説が飛び交う今、「いろんな国の人がいるからこそいろんな料理が食べられる」という言葉に深く首肯せずにいられない。=朝日新聞2026年9月5日掲載