北海道が日本と国交断絶し、北海道の帝……略して「道帝(どうてい)」を頂く独立国家となった時代。道帝直属の秘密部隊「道(ドウ)—MEN(メン)」を率いる少年・斉藤幸之助は、北海道に不法入国した謎の少女・早乙女めろんの身柄を確保する。だが東京からの工作員と思われた彼女の目的は、「ありったけの北の美食を、この口にぶっ込むこと」であった。かくしてはじまる食べ歩きの旅だったが、彼女と道メンの接触は、道内に潜伏していた千葉県民、そして最強の戦闘民族と名高い群馬県民の工作員を刺激することとなってしまう……。
テレビアニメ化もされた『ベン・トー』(集英社スーパーダッシュ文庫・全15巻)で知られるアサウラが送る新作『道—MEN 北海道を喰(く)いに来た乙女』は著者の出身地である北海道が舞台。試される大地・北海道の過酷な環境で(いささか微妙な)超能力に目覚めた少年少女が戦う、言わば地元密着型「X—MEN」である。『ベン・トー』にて描かれた夜のスーパーでの半額弁当をめぐる戦いのように、著者はバカバカしい光景を真面目な顔して語るのが本当にうまい。今回は北海道、千葉、群馬の一道二県が、それぞれのご当地品を武器に、地元の誇りをかけた熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げる。
おなじく著者が得意とするグルメ描写も健在。それもウニやらカニやらといった定番は一切無視。スープ付きカップ麺「焼きそば弁当」、「ダブルラーメン」、「ビタミンカステーラ」等々、地元で愛されるB級グルメが次々登場し、時に本編そっちのけの勢いでその魅力が語られる。
アクションにグルメと著者の持ち味が詰まった本書だが、さらにもうひとつ。北海道を守る特殊部隊のリーダーでありながら、主人公の幸之助は、東京のアイドル声優に熱中するオタクであり、東京に切実な憧れをもった、等身大の少年として描かれている。著者のアサウラをはじめ人気ライトノベル作家には意外と北海道出身の書き手が多い。彼らの送った青春のその一端が垣間見えた気がする。
北海道の魅力のみならず過酷さも含めて丸ごと描く。悪役にされた千葉、群馬両県の方は、どうか笑って許してあげてほしい。=朝日新聞2017年7月30日掲載
編集部一押し!
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
-
となりの乗客 手洗いとは岡山駅 津村記久子 津村記久子
-
-
作家の読書道 嶋津輝さんの読んできた本たち 高2の夏休み「華岡青洲の妻」で踏み入った有吉佐和子沼(前編) 瀧井朝世
-
杉江松恋「日出る処のニューヒット」 蝉谷めぐ実「見えるか保己一」 知の巨人・塙保己一を美化せず、等身大の人物として描いた傑作評伝(第37回) 杉江松恋
-
わたしの大切な本 映画監督・山中瑶子さんの大切な本 「未熟は普通」絶望から開けた道 堀越理菜
-
谷原書店 【谷原店長のオススメ】長瀬ほのか「わざわざ書くほどのことだ」 対照的なふたり、軽妙なエッセイに 谷原章介
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社