裸足で逃げる―沖縄の夜の街の少女たち [著]上間陽子
沖縄で暴力を受けて育った女性たちの個人史を、聞き取り調査をもとに描いた記録である。
何度読んでも、私はまた泣きながら読むことになる。「泣ける話」なのではない。凄絶(せいぜつ)すぎる体験をしている彼女たちの言葉が、初めて何の断罪も裁きも下されずに聞き取られた瞬間を目にするからだ。
貧困家庭で暴行を受けたりネグレクトされたりした少女たちが、居場所を求めて外の男たちに出会い、今度は彼らから暴力を受ける。子どもができる場合も多い。生きるため、夜の街でお金を稼ぐ。つまり、早く大人にさせられる。未成年なのに、人生の責任をすべて背負わされる。助けてくれる人がいた例(ため)しはないから、誰にも助けを求めないし困難を語らない。いつも男の物理的な暴力によって、言葉を封じられてきたから。
そんな人たちに、上間さんは、語っても大丈夫な場を作る。あらゆる予断を挟まずに、ただひたすらに聞く。
「聞く」という行為は簡単ではない。私たちは多くの場合、他人の話を自分の常識から判断して、口を挟んでしまう。けれど必要なのは、聞く側が「語る権力」を捨てること。それは、自分も相手に無防備に身をさらすよ、という意思表示だ。
そうしてようやく出てきた言葉に、上間さんは寄り添う。彼女たちが抱いた感情を肯定し、孤独を訴えれば側(そば)にいようとする。そこから信頼が始まる。登場する6人の女性のうち、何とか人生を立て直した3人は皆、自分を決めつけないで受け止めてくれる人と出会っている。
女性が暴力を受けるのは女性にも問題があるからだ、という断罪の態度は、もう終わりにする時が来ている。本書が、この欄で取り上げられるほど読まれているのも、そんな言い方に傷ついている人が多いからだろう。私たちも本当は聞いてほしいのだ。ならば、まず聞く側に回ろう。上間さんが少女の言葉を聞くような姿勢で、私たちもこの本の言葉を読む時なのだ。
(星野智幸=小説家)
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太田出版・1836円=6刷1万2500部 17年2月刊行。登場する女性たちと同世代(10〜20代)の読者から、「沖縄についての無知をひらかれた」という感想も寄せられている。=朝日新聞2017年7月16日掲載