- 『人間とは何か』 マーク・トウェイン著 大久保博訳 角川文庫 605円
- 『A』 中村文則著 河出文庫 594円
- 『戦後日本のジャズ文化 映画・文学・アングラ』 マイク・モラスキー著 岩波現代文庫 1447円
(1)老人と若者の対話で進んでいく物語は、「人間は機械である」と主張する老人が、人間の良心を信じる若者の気持ちを次々と打ち砕く。「なぜ、そこまで」と思わせるトウェインの人間嫌いだが、ユーモアを混ぜつつ、多彩な表現で若者を論破する老人の舌鋒(ぜっぽう)に、可笑(おか)しみを感じつつも、つい話に聞き入ってしまう。
(2)個人が何らかの大きな圧力により、狂気と呼ばれてもおかしくない状態に陥ってしまう状況は、表題作のような戦時中も、平時でも変わらない。「自分はいま〈正気〉でいるのだろうか」と、読後自らに問いかける人もいるかもしれない。軽妙なタッチで書かれた作品も魅力的であり、一作ごとの作風の違いに驚かされる短編集。
(3)戦後の文学には、五木寛之、大江健三郎、中上健次、村上春樹など、ジャズが大きな役割を果たす作品が現れる。文学や映画、ひいてはその時代におけるジャズの受け容(い)れられ方を見ることで、時々の日本社会を映しだす、異色で興味深い日本文化論。=朝日新聞2017年06月04日掲載