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福永信が薦める文庫この新刊!

  1. 『植物はそこまで知っている』 D・チャモヴィッツ著 矢野真千子訳 河出文庫 864円
  2. 『アルキビアデス クレイトポン』 プラトン著 三嶋輝夫訳 講談社学術文庫 886円
  3. 『誘拐されたオルタンス』 ジャック・ルーボー著 高橋啓訳 創元推理文庫 1080円

 (1)センセーショナルな題名だが知的刺激に満ちた本。ヒトと植物にはこんなにも「共通」することがあるのかと驚く。上下を決して間違えず、時差ボケになる。触られることに敏感で、熱だけでなく電磁波も感知。むしろヒトより多感だと思えるほど。ダーウィンから最近の研究までユーモアあふれる筆致で綴(つづ)る。植物は感動することはできないが、ヒトはこの本のエピローグで胸を熱くするだろう。
 (2)著者は政治的激動の時代に数々の著作をものにした。偽作も出回り、本書もその可能性が疑われる。だがそうだとしてもユーモアと文才、危機意識の持ち主だろう。「正義」のありかを問いながらソクラテスが美貌(びぼう)の青年を追い詰めていく、対話だけの世界。現代文学顔負けの強烈な面白さ。
 (3)とはいえ負けてられません。ミステリ仕立てではあるが肝心の誘拐は後回し。その前に書くことはこんなにあると言わんばかり、細部にやたらユーモアを仕込む。出し惜しみ一切なし。読者自身が著者の世界に誘拐されたと気づく、待望の第二弾。=朝日新聞2017年04月16日掲載