1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 池上冬樹が薦める文庫この新刊!

池上冬樹が薦める文庫この新刊!

  1. 『ゴーストマン 時限紙幣』 ロジャー・ホッブズ著 田口俊樹訳 文春文庫 1058円
  2. 『冬の灯台が語るとき』 ヨハン・テオリン著 三角和代訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1274円
  3. 『ビブリア古書堂の事件手帖7 栞子さんと果てない舞台』 三上延著 メディアワークス文庫 702円

 (1)は、48時間後に爆発する“時限紙幣”を犯罪の後始末のプロが追跡する犯罪小説。過去と現在を並行させる巧みな展開、迫力にみちた銃撃戦、緻密(ちみつ)な強奪計画と実行と申し分ない。複数の陰謀が絡み合い、沸点を目指していく興趣も抜群。スタイリッシュでクールすぎるのが逆に鼻につくほどの若き才人のデビュー作。昨年28歳で急逝した。
 (2)は、現代ミステリーを牽引(けんいん)する北欧小説の一冊。傾向として挑発的で野蛮で力強い作品が多いが、テオリンは静謐(せいひつ)感ただよう正統派。中盤まで事件らしい事件が起きなくてもじっくりと読ませ、しみじみとした味わいをもつ。
 (3)は、古書をめぐるシリーズの完結編で、今回は初の洋書、それもシェークスピア。当時の演劇や出版状況などを詳細に語りながら、同時に栞(しおり)子の家族の秘密(母親との冷めた関係。母と祖父の確執。祖父が張りめぐらした罠〈わな〉)も解きあかしていく。人生と古書の縁を繊細にリリカルに捉えた名連作。番外編でもスピンオフでもいいから続けてほしいものだ。=朝日新聞2017年04月02日掲載