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キムチの迷宮 嵐山光三郎

 韓国でキムチを食ってきた。
 これはもうアナタ、決死の覚悟ですよ。辛いものを食べるときは骨の髄まで気力がみなぎる。辛さというものは無限である。歯をくいしばりながらも悠然とほほえんで食べ、ホテルの部屋に入ってから気絶するのである。中国四川省成都では極辛麻婆豆腐(血の池鍋)とモーレツ粉辛子肉(粉唐辛子を肉にまぶす)を食べ、インドでは胃のなかから炎が噴き出す超辛ホットカレーをすすり、タイでは舌が裏返るトムヤムクン(極辛汁)を飲み、自宅では風呂の湯にカレー粉を入れる。
 韓国のキムチは塩分が強すぎ、日本の韓国料理店で出されるキムチのほうがじわりとくる。メンタイコやナムルもそうであった。韓国へ行くたびにさまざまな韓国料理を食べ、辛い旨(うま)みの迷宮をさまようのだが、キムチとなると、上等品にぶつからなかった。日本にいる韓国人の友人に「キムチは家庭で漬けたものが一番」と教えられたから、ソウルほか安東(アンドン)市や木浦(モッポ)の家庭を訪ねて食べさせてもらったが、塩が強すぎた。
 こうなると私の好みと韓国人の好みが違うとしかいいようがないのだが、韓国式刺身(さしみ)(フェ)が好きだし、生肉のユッケ、カキの塩辛、韓国鍋(チゲ)、朝のスンドゥブ(豆腐コチュジャン煮)、いずれも好物なのである。
 木浦港で活(い)きダコの刺身を食べた。小ぶりで足が細いが、吸盤がでかい。活きダコを包丁で五センチ幅ぐらいに切って、ゴマ油、コチュジャンをつけて食べる。箸でつまむと、箸の先にタコの足がからみついてくる。活きダコを嚙(か)まずに呑(の)み込むと、吸盤が食道の汚れを吸いとってくれるというから、やってみると、食道にへばりついた。モチがのどにひっかかった感じである。あわててビールを流しこんだらタコは食道の片側にはりついて、ビールを通過させてしまった。よーし、マッカリ(どぶろく)を流してやろうと飲み込めば、タコも酒好きらしく、ゆるりとはがれるそぶりを見せたものの、酒ぐせの悪い女みたいにからんできた。
 見かねた店の主人がキムチを差し出してくれたから、それを嚙まずに呑んでから床の上でトントンとジャンプしたら、やっとタコは胃の中へ落ちていった。胃へ落ちれば胃液があるからイチコロだ。人間の胃は鉄をも溶かす。そう考えてみると人間の胃というのはじつに恐ろしい装置だな。
 私の発明料理はカクテキ(大根の唐辛子漬物)のからあげ。水分をよく切ってから、三、四個をやき鳥用の串にさしてからあげにする。あげたてのカクテキは香ばしさがぱっと花開き、ヒリヒリする辛さがつーんときて、やがて大根特有の甘さが広がって、オオオオッと声をあげてしまう。