「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、不倫を主題にした愛の物語、渡辺淳一の『失楽園』に挑みます。
出版社で働く久木(くき)は書道講師の凛子と出会い、妻子ある身でありながらも美しい人妻の凛子に惹かれていきます。初めは久木の猛烈なアタックに戸惑っていた凛子も徐々に好意を抱き、二人はやがて深く愛し合うように。
日本経済新聞の新聞連載小説として掲載され、なまめかしい性描写が話題となった本作。単行本が刊行された1997年には映画・ドラマ化され、その年の流行語大賞にも選ばれるほどの社会現象となりました。
「最後の晩餐」を食べる
そんな大ヒット作に登場する印象深い料理が、鴨とクレソンの鍋。愛し合う二人が食した“最後の晩餐”です。
あらかじめ材料を用意していたらしく、茸(きのこ)とベーコンのサラダに、鴨とクレソンの小鍋をあたためて食卓テーブルに並べる。
久木は昨夜、ホテルで分けてもらったシャトーマルゴーの栓を抜き、ゆっくりとふたつのグラスに注ぐ。
鴨とクレソンという食材だけでもかなり小洒落ていますが、これに高級ワインのシャトーマルゴーを合わせるなんて、大人の世界です。
とはいえ、鴨肉とクレソンだけというのも寂しいので、ローストしたネギや肉だんごも入れた鴨鍋をベースにクレソンをたっぷり加えてみました。美味しいのは言うまでもなく、こんなに美味しいものを食べておきながら、この世に未練を残さずにいられた二人の覚悟に並々ならぬものを感じました。
特にスープは鴨の出汁が出て旨味たっぷり。未練がましく最後の一滴まで味わいたいと、蕎麦を投入してきっちり〆ました。