手塚治虫のことばかり考えているという。昨年は手塚作品をモチーフにした個展を開き、4月から「小説 火の鳥 大地編」の絵を担当。そしてこの絵本だ。「手塚病にかかっているんだな。ずっと手塚さんの存在が消えていなかった」と話す。
小学生のとき、大阪の闇市で手塚の『新宝島』に出会った。主人公が乗る自動車の車輪は楕円(だえん)形にゆがみ、背景の電柱が曲がっていた。「そのスピード感。『これだ!』と思った」。ビジュアルに衝撃を受けて自分の表現を探し求め、1969年に長友啓典さんとデザイン事務所K2を立ち上げた。
70歳を過ぎてから手塚について話す機会が増え、不思議な縁が続く。たまたま出会った人が手塚の友人の息子だったり、紹介された手塚プロダクションの松谷孝征社長はもともとの古い知人だったり。巡り合わせを感じ、許しを得て手塚のキャラクターを描きだした。「どんどんイメージが湧いてくる。面白くて止まらなくなった」。作品は数千枚に。描くうち「アトムが人間の少年になったら」とアイデアが膨らんだ。
「原作」は手塚治虫、「原案・絵」が自身の役回り。構想を聞いた編集者の稲葉茂勝さんが「文」を担当し、絵本にまとめた。地球を守るために戦い傷ついた鉄腕アトムが、自然や命について考えるうち、18歳の人間の少年になる。「最近、選挙権は18歳からになった。その分、兵隊にもなれよ、ということではないかと思ってしまう。アトムは、これからまだ苦労しないといけない」
雑談の合間にも、おもむろにクレヨンを持ち、手が動く。「好きなんですよ」。とたんに目が輝き出す。カメラマンが慌てて再びレンズを向けた。「絵で生きていくなんて、夢にも思わなかった。手塚さんに答えるような気持ちで描いています」(文・滝沢文那、写真・横関一浩)=朝日新聞2019年4月27日掲載
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