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怪奇な事件の裏には… 書評家・杉江松恋

杉江松恋が薦める文庫この新刊!

  1. 『ゴーストライター』 キャロル・オコンネル著 務台夏子訳 創元推理文庫 1598円
  2. 『今昔百鬼拾遺 鬼』 京極夏彦著 講談社タイガ 745円
  3. 『推理小説集 名も知らぬ夫 昭和ミステリールネサンス』 新章文子著 光文社文庫 950円

 (1)呪われた芝居の物語である。初日には観客の1人が心臓麻痺(まひ)で他界、翌日は同じ最前列に座った脚本家が喉(のど)を切られて死んだ。2日続けて第1幕で中断である。さらに舞台裏では、ゴーストライターを名乗る者が脚本を勝手に書き換える事態が進行していた。
 演劇の都ブロードウェーで起きた事件に挑むのは、NY市警のキャシー・マロリーだ。彼女は高い知能の持ち主ながら他人と心を通わせることが全くない人物なので、言動にとまどう読者も多いだろう。だが、奇怪な事件に道筋をつけられるのは、彼女の突出した知性だけなのだ。とにかく尖(とが)ったものがお好きな方に。

 (2)は人気の「百鬼夜行」シリーズの一作だ。憑(つ)き物落としの京極堂こと中禅寺秋彦の妹で、雑誌記者の敦子が主役を務める。
 辻斬り犯に殺されたと見られる少女・片倉ハル子は生前、奇妙な悩みを口にしていた。片倉家の女性は斬られて死ぬ。その運命から自分も逃れられないというのだ。不思議な因縁話と見えた事件が調べによって姿を変え、切実な人間関係を浮かび上がらせる。理詰めの物語運びが快感である。

 (3)の作者である新章文子は、宝塚歌劇団出身という経歴を持つ乱歩賞作家だ。8編を収録した本書では主として女性の視点から、人の心の中で殺意が成長していくメカニズムを描いている。表題作は、長く音信の途絶えていた従兄(いとこ)に恋をした女性が窮地にはまっていく話で、日常が悪意に浸食される過程には有無を言わせない凄味(すごみ)がある。怖い作家なのだ、新章は。=朝日新聞2019年5月11日掲載