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熱気に包まれた香港 湊かなえ

 香港ブックフェアに行ってきました。七日間の開催期間中、私が到着した土曜日の来場者数はなんと、一〇〇万人。香港の人口は約七〇〇万人なので、七人に一人が本のイベントに集まっているということになります。まさに老若男女、日本の祭りや花火大会でもこれほどの人出を目の当たりにしたことはありません。五階からなる会場は熱気に包まれていました。

 文具、子ども用学習教材、日本観光、どのコーナーも身動きが取れないほどの大盛況で、皆、本を山積みに抱えて購入していました。キャリーバッグを引いている人の姿も珍しくありません。

 果たして文芸書は? ガラガラだったらどうしよう。そんな心配は杞憂(きゆう)に終わりました。他のコーナーに負けないほど、人が溢(あふ)れかえっています。何万冊も並ぶ中には私の本もあり、熱心にあらすじを読みながら厳選してくれている人の姿も見かけることができました。

 翌日、日曜日は、目と鼻の先の距離で二〇〇万人規模のデモが行われていたにもかかわらず、トークイベントに大勢の方がお越しくださいました。会場に入りきれず、ライブビューイング会場が設けられたほどです。質疑応答も、作品を読み込んでくれたことがわかるようなものばかりで、しかも、一人の質問に会場のほとんどの人が深く頷(うなず)いている姿を見ると、感動、そして、感謝の気持ちが湧き上がってきます。

 政治が不安定な中、本を求めてくれる人たちがこんなにもいる。自分の作品を応援してくれる人たちがこんなにもいる。人と人とを繋(つな)ぐという、本の持つ可能性やパワーを改めて実感し、意気込みも新たなものとなりました。

 タイトスケジュールの中、暇ができればおいしい点心を食べまくり、香港愛が炸裂(さくれつ)しているぶん、デモに参加する香港の若い人たちが、希望ある未来を感じられるような結果に収束しますようにと、心から祈らずにはいられません。=朝日新聞2019年8月7日掲載