タイトルからしてベストセラー『サピエンス全史』を彷彿(ほうふつ)させるが、中身も相通じるものがあった。人類史を幸福の視点から問い直した同書の終章は「超ホモ・サピエンスの時代へ」。そこで論じられた未来の可能性の一歩先を、本作は提示している。
物語は、ロボットと人間が共存する(両者の結婚すら認められた)時代から始まる。大富豪からの「50年前に手放したロボットを捜してくれ」との依頼にまつわる秘話、誰の所有物でもなく人々の多様な依頼に応える〈自由ロボット〉の仕事ぶり、惑星探査のため外宇宙へ旅立った2体のロボットの運命……。複数のヒトやロボットの“人生”がオムニバス形式で描かれる。
なかでも軸となるのは、放射性廃棄物最終処分施設の管理を託されたロボットの任務完遂までの25万年だ。そんな途方もない時間の果てに、どんな世界が待っているのか。そこに幸福はあるのか。
磨き抜かれたシンプルな線で描かれる超未来図に震撼(しんかん)する。背景に記された図案化文字の皮肉と諧謔(かいぎゃく)には苦笑。手塚治虫をはじめ、さまざまなSF作品へのオマージュ的要素にもくすぐられる。知性とは、文明とは何か。その仮想解答例がここにある。=朝日新聞2019年9月21日掲載