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舞台「組曲虐殺」主演の井上芳雄さん 前へ、前へと進んだ多喜二のようでありたい

文:土田ゆかり、写真:斉藤順子

――2009年に初演、12年に再演、そして今回の再々演です。この作品は、井上さんにとってどのような思い入れがありますか?

 教えてもらったことがたくさんある作品です。以前は、資本主義と社会主義、右派と左派とか気にしたことがありませんでした。でも、この作品をきっかけに演劇に携わる者として、自分は平和な社会を望んでいるとつくづく思ったり、社会のあり方について考えたりするようになりました。考え方に共感する多喜二や井上先生に恥ずかしくない人生を歩みたいと常に思っています。演劇をやっていく意味があると教えてもらった作品でもあります。

――演劇をやっていく意味とは、具体的にどのようなことですか?

 書くときには「体ぜんたいでぶつかっていかなきゃねえ」という多喜二のセリフに、小手先じゃだめだ、伝えたいことがあるなら、カッコ悪かろうがなんだろうが全力でやりなさいと言われていると思ったんです。演技に自信がなくて、上手、下手を気にしてしまう自分の心に響きました。

 今も、くじけそうになったり、逃げそうになったりすると思い出します。多喜二は29歳で亡くなっています。若かったし、すごく上手い作家ではないと思います。それでも前へ、前へと進み続けた人なので、自分もそうありたいと思っています。

――井上ひさしさんは2010年に亡くなって、この作品が最後の戯曲になりました。印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

 脚本が出来上がったのが、開幕する4日前でした。でも、初日の幕が開いた後に、「一昨晩、DVDを4本見たんですよ」と、ヒゲぼうぼうの井上先生がニコニコしていらっしゃったのは印象に残っています。

 「作家はいい脚本が書けたと思ったら、眠れないくらいエネルギーが湧いてどんどん元気になるけれど、これはまずいと思うと寝込んでしまうものなんです」とおっしゃっていました。その言葉を聞いて、先生ご自身がそんな風に感じられる作品が出来上がって本当に良かった、自分が出演させてもらうのは光栄なことだと思いました。

2009年10月の「組曲虐殺」(東京・天王洲、銀河劇場)より。左から井上芳雄、高畑淳子、石原さとみ(撮影:落合高仁)

――再演のとき、改めて気がついたことなどはありましたか?

 タイトルには「虐殺」という怖い言葉を使っていますが、内容は、どたばたして笑いがあって、ほのぼのしています。これは、人間として愛すべき多喜二に焦点を当てているからだなあと思いました。亡くなるまでの愛しい時間を描いたところに、井上先生の多喜二への思いを感じました。

――今回の再々演ではいかがでしょうか?

 この10年の間に、僕は結婚をして、子どももいます。幸せの形はさまざまですが、平和な時代に生まれていたら、多喜二も奥さんがいて子どものいる家庭の幸せを味わったかもしれない。もっと生きてほしかったなと思います。

 あと、先生の最後の戯曲になってしまったのもありますが、劇中の「あとにつづくものを 信じて走れ」という歌詞は、井上先生がどういう思いで書いたのかなと思います。大事なものをつないでいくから、希望を持って死んでいけるんですよね。自分も託された者としてだけでなく、託す側になったと思うので、そういうことも考えるようになりました。

――普段の役作りでは、原作本を読みますか?

 初演のときは読みますね。以前はかなり読んでいましたが、今はほどほどにしています。読み込まない方がいいこともあるんです。

 でも、本はよく読みます。読みたい本がいっぱいあって、積ん読しています。現代の社会を舞台にした小説や、ノンフィクションが多いですね。少し前に生きた人が外国に行った話が好きです。西洋へのあこがれって今も日本にあるから、共感できますしね。最近読んだ本だと、女優の高峰秀子さんがパリに行ったときのことを書いたエッセーが良かったですね。外国に行った話ではないですが、ジェーン・スーさんの『私がオバさんになったよ』も面白かったです。

――ジェーン・スーさんの本を読むきっかけはあったのですか?

 僕はラジオのパーソナリティーをしているんですが、勉強のために昼のスーさんの番組を聴いてみたんです。面白い人だなあと思って、読んでみました。この本には、はっとさせられましたね。

 今、女性の生き方や権利に関して、世の中の考え方が大きく変わろうとしていますよね。自分は比較的リベラルな方だと思っていましたが、当たり前と思ってしたことが実は差別だったかもしれない、傷つけていた可能性があると気がつきました。奥さんとも話をしますが、これから変えなきゃいけないこととか、変わることがたくさんあると思っています。

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