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「自分が幸せになるためには、仲間も幸せにしなくちゃいけない」 rkemishi(owls/Fatslide/MANOS)が選ぶ天邪鬼な3冊

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

留置所の中で読んだ「白夜行」がクラシック

 rkemishiは昨年GREEN ASSASSIN DOLLARとのユニット・owlsでアルバムをリリースしたことで、注目を集めるラッパーとなった。彼は14歳の時、東京のヒップホップシーンで活動を始めた。

 「あの頃は今みたいにヒップホップが流行ってなくて、そもそも同世代でラップをやってるやつが全然いなかった。先輩も結構年上で、俺の次はもう19歳とか、そんな感じ。東京だと、亡くなってしまったFebbが同い年です。実は彼が主催してたイベント『Foggy Place』の1回目にも出演しました。当時はまだmixiのコミュニティとか、モバゲータウンが流行ってて。そこでFebbと繋がったんです」

 そう語るrkemishiだが、彼は一時期ヒップホップから離れていた。

 「俺の人生が変わったのは18歳の時。拉致監禁で捕まってしまったんです。その逮捕をきっかけにいろいろな繋がりが生まれて、イリーガルな仕事をやるようになりました。20代前半は、あまりラッパーの活動をしてないですね。あの頃は悪事のほうがかなり順調で。そっちが忙しかったし、お金もあった。当時は家の前に止まってる車のナンバーは一目で全部覚えられたし、背広を着てる人は全員刑事だと思っちゃうような感じでした。でも、当然そんな生活は長続きしなくて。あんなにあったお金もすぐになくなっちゃいました。普通の仕事もいろいろしたけど、なんかハマらなくて。そんな時、自分が本当に何をしたいか考えたら、俺にはラップしかなかったんですよね」

owls (GREEN ASSASSIN DOLLAR & rkemishi) “amanojack” (Official Video)

 今回の「ラッパーたちの読書メソッド」はそんな起伏の激しい半生を過ごしてきたrkemishiにおすすめの本を教えてもらった。まずは東野圭吾の代表作『白夜行』。1973年に大阪で起きた殺人事件の関係者である、桐原亮司と西本雪穂を中心に、さまざまな人物と複雑な伏線が交差する壮大なミステリー作品だ。rkemishiは19歳で捕まった時、留置所で読んだという。

 「文庫本で900ページ近くある本なんですが、留置所にいた3〜4週間で4回くらい読みました。それぐらいハマった作品ですね。『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』の影響もあって、小さい頃からミステリーが大好きなんですよ。先の展開を考えながら読むのが楽しい。

 『白夜行』は主人公・桐原亮司の気持ちが一切書かれてないんですよ。場面と状況の描写だけで作品を成立させちゃってるのはかなりすごいと思いました。あとこの作品は物語の中にものすごくたくさん伏線が張られているんだけど、それが全部回収されているところも好きです。まったく破綻してない。自分が歌詞を書く時も、1曲の中で言ってることの整合性が取れてるか、筋が通ってるかどうかはすごく意識してます。そういう面でもしっくりくる作品ですね。

 『白夜行』のことは普通に知ってたんだけど、なんせ長いから『きっと読みきれないだろうな』と敬遠してたんですよ。でも意外とすいすいイケちゃったので、そういう意味でも印象深い。留置所という特殊な環境だったからかもしれないけど(笑)。東野圭吾の本は出所してイリーガルなことをやってた時に全部読みました。暇な時間が多かったので。でもやっぱり『白夜行』が一番好きですね」

「悪くてカッコいい人」の共通点とは?

 2冊目はドラマ「MOZU」の原作になった「百舌シリーズ」でおなじみ逢坂剛の『禿鷹の夜』。こちらは悪徳警官・禿富鷹秋(通称:ハゲタカ)が躍動するハードボイルド作で、通称「禿鷹シリーズ」としてこれまで5作品が刊行されている。「禿鷹の夜」はその1作目。ハゲタカが南米マフィアと壮絶な戦いを繰り広げる。

 「ハードボイルドも好きです。大沢在昌の『新宿鮫シリーズ』とか、馳星周の作品もかなり読みました。どれも甲乙付け難いけど、今日は特に好きな『禿鷹シリーズ』の1作目を持ってきました。主人公のハゲタカは警官なのにめちゃくちゃ悪いやつ。ヤクザにはたかるし、路上にいるホームレスを意味もなく突然蹴っ飛ばしたりもする。なんでそんなことをするかといえば、ハゲタカは自分のルールに従って生きてるから。

 俺は『法律で決まってるからこれはダメ』という考え方ではなく、ハゲタカのように自分の基準で世の中のアリ/ナシを判断したい。フィクションに限らず、実生活でもそういう人に憧れますね。ハードボイルドの作品には『悪くてカッコいい』人がたくさん出てくるけど、共通してるのはしっかりとした自分の意志を持っているということだと思うんですよね」

俺の憧れ、Kidsの頃から薫花山

 rkemishiが最後に挙げたのは板垣恵介の『グラップラー刃牙』。マニアックな格闘描写、大胆なコマ割り、独特な画風、ユニークな言語感覚など、ワンアンドオンリーな表現には連載が終了した今も熱狂的に支持されている。昨年秋にはアニメシリーズの第二期がNetflix独占で配信されることも決定した。

 「昔から強い男に対する憧れがあるんですよね。自分が全然強くないので。喧嘩も弱いし。というかそもそも好きじゃない。だからこそ創作では強い男を求めるのかもしれない。特に好きなのが『刃牙』に出てくる花山薫というキャラクター。owlsの『sohardays』という曲では『俺の憧れ、Kidsの頃から薫花山、それにUnchain』とラップしています。ちなみにUnchainも『刃牙』のキャラクター(笑)。ビスケット・オリバというめちゃくちゃ強いアメリカ人がいて、そいつは刑務所にいるのに、強すぎて中で超自由に暮らしてるからミスター・アンチェインと呼ばれてるんです。

取材協力:九州珠(050-5571-7168、http://restaurant-kusudama.com/)

 俺は花山薫の練習をしないところが好きなんですよ。常に己の体のみで戦う。俺自身もラッパーとしてそういう部分で花山薫に影響を受けています。実は俺、ものすごい音痴なんです。しかも音楽の知識も全然ない。キーとかもよく知らないし。いろんな人に『もっと音楽の勉強しろ』って怒られるんだけど、俺には天邪鬼なところがあるから、言われるほどやりたくなくなる。『人とは違う自分なり方法はないものか』って。あとラッパーとして一番衝撃を受けたのがMSCなんです。彼らは音楽のことを全然知らないと思うんだけど、めちゃくちゃカッコいいヒップホップをやってた。MSCのそういう姿勢は花山薫を思い出させましたね。

 俺はできるだけ人と同じやり方はしたくない。実はちょっと前まで弁護士事務所で働いてたんですよ。俺には音感も知識もないから、できるだけ人とは違う特別な経験をたくさんして、それをヒップホップに活かしたい。弁護士事務所で働いた経験を持ったラッパーなんてあんまりいないでしょ?(笑)」

 選書からユニークな発想で生きるrkemishiの姿が見えてきた。では、彼は今後どんなラッパーになりたいのだろうか?

 「仲間と一緒に幸せになりたいんです。俺1人だけが幸せになるのは嫌だ。それは独りぼっちなのと変わらないから。例えば、俺だけが成功して金を持ってたとする。仲間と遊ぶ時、毎回俺が飲み代を出してあげることもできると思う。けど、その関係ってちょっと変だと思うんですよ。お金が介在すると、仲間うちでも絶対に上下関係が生まれてしまうから。その状況では俺自身も幸せじゃないと思う。社会全体が平等になるのは難しいと思うけど、せめて俺の仲間うちだけはみんな等しく幸せになってほしい。俺はそのためにがんばりたい」

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