1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 杉江松恋さんが薦める新刊文庫3冊 ユニークな探偵たちの事件簿

杉江松恋さんが薦める新刊文庫3冊 ユニークな探偵たちの事件簿

杉江松恋が薦める文庫この新刊!

  1. 『不穏な眠り』 若竹七海著 文春文庫 715円
  2. 『奇術探偵 曾我佳城全集』(上・下) 泡坂妻夫著 創元推理文庫 上1210円、下1320円
  3. 『55』 ジェイムズ・デラーギー著 田畑あや子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1276円

 (1)は圧倒的に運が悪く、しょっちゅうトラブルに巻き込まれる探偵・葉村晶シリーズの最新作だ。シシド・カフカ主演のドラマも制作されている。

 四作を収めた短篇(たんぺん)集で、表題作では孤独死した女性についての調査依頼が舞い込んでくる。だが聞きこみを始めた途端、葉村はなぜか激怒した証人に首を絞められてしまう。スタンガンで気絶させられたり、池に突き落とされたり、誠に本作でも葉村はついてない。

 珍騒動に笑いながらページを繰っていると、いつの間にか作者の術中にはまっている。意外な真相の待つ、結末にたどり着いて、初めてそれに気づくのだ。

 (2)は、アマチュア奇術師としても知られていた作者による、アイディアに満ちた短篇集だ。美貌(びぼう)の奇術師・曾我佳城の登場する全作品が収録されている。殺人現場の天井にカードが貼りついていた、という奇妙な物語「天井のとらんぷ」に始まり、拳銃を使う奇術中に起きた事件を描く「消える銃弾」、状況設定に大きな目くらましがある「花火と銃声」など、全二十二篇で推理の醍醐(だいご)味が味わえる。

 (3)はオーストラリア産の長篇である。警察署にゲイブリエルという名の男が駆け込んでくる。彼はヒースという男に捕まって監禁され、お前が55番目の犠牲者になると宣告されたのだと訴えた。だがその直後、今度は当のヒース自身が警察署にやって来る。彼の主張はまったく逆で、ゲイブリエルに殺されそうになったと言う。嘘を吐いているのはどちらか。類例のないスリラーだ。=朝日新聞2020年1月25日掲載