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『日本史のなかの「普遍」』書評 下からの革命 「復古」が逆機能

評者: 石川健治 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月11日
日本史のなかの「普遍」 比較から考える「明治維新」 著者:三谷博 出版社:東京大学出版会 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784130201575
発売⽇: 2020/02/03
サイズ: 22cm/391,14p

近世後期から明治維新にかけての日本を素材に、その普遍性と特殊性をとらえ、比較史の観点から考察。維新史研究の最前線を通じて、言語と史料の境界を越え、世界に開かれた日本史の可…

日本史のなかの「普遍」 比較から考える「明治維新」 [著]三谷博

 本書の究極の問いは「憲法」だといってよい。この点、啓蒙主義や市民革命を「普遍」と考える立場は、とかく日本特殊論に陥りがちだ。けれども著者は、君主制をてこにした世襲身分制の解体という「近代世界史上でも有数の革命」として、明治維新を問い直す。
 一般に19世紀までの世界で、政治的にアクティブだったのは「貴族と中間層」であって「庶民」ではない。「大名の家臣や牢人」を領主と庶民の間の「中間層」とみれば、王政復古と称する明治維新の内実は、「中間層」による「朝廷の簒奪(さんだつ)」であって、「下からの改革」と見た方が実情にあっている、と著者はいう。「攘夷」の主張も、実は「抜本的改革を起動するための手段」に過ぎず、「復古」と「進歩」は「政治変革の象徴」として「機能的には等価」である。事実、幕末の長州は、関門海峡で攘夷戦争を開始する直前に、井上馨や伊藤博文をイギリス留学に送り出している。
 ペリー来航という「緊急事態発生」が、日本防衛のための「言路洞開」「人材登用」を推し進めた。天皇と朝廷が立憲主義による君権制限をも受け容れたのは、そうした「公論」の場としての朝廷に、現場の下僚による「起案」、重臣による「合議」、君主による「裁可」という、ボトムアップ手続きが既に確立されていたからだ。これらも、抵抗の少ない「別の実現しやすい目標」から入る「間接戦略」だと考えれば、別段珍しい仕方ではない。天皇と将軍と諸大名による「双頭・連邦国家」という、日本独特の複合的国家構造が、それを促進した。
 しかし、「人類普遍の原理」(日本国憲法前文)の日本的受容の陥穽(かんせい)に、著者は目配りを怠らない。世界像の空間的拡大が却って、万世一系の皇統に頼る日本中心観を強化し、天皇即位儀礼を再編させた。現在と未来を縛る「復古」の逆機能は、1930年代に思考の自由を奪い、「国家自体の自滅」をもたらしたのである。
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みたに・ひろし 1950年生まれ。跡見学園女子大教授(日本近代史)。東京大名誉教授。『明治維新を考える』など。