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「生きた日本語」の理論 山田航さんが薦める新刊文庫3冊

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『日本文法 口語篇・文語篇』 時枝誠記著 講談社学術文庫 2519円
  2. 『宮沢賢治の真実 修羅を生きた詩人』 今野勉著 新潮文庫 880円
  3. 『東京百景』 又吉直樹著 角川文庫 726円

 (1)欧米の文法学の真似(まね)ではなく、日本の言語観と対峙(たいじ)したうえで日本語文法を研究しようとした言語学者の労作。本居宣長をはじめとした江戸期の国学者への尊敬を抱いており、いうならば近代を代表する新しい国学者であった。その理論は、学校国語で習う文法とは大きく異なることに気付く。日本語がどのような過程を経て表現されるのかという点に着目した、「生きた日本語」の理論である。「日本語の乱れ」と称されるものは大方、この文法理論の範囲内で説明できるのではないかと思う。辞書のように座右に置きたい一冊。

 (2)はテレビ演出家による宮沢賢治論。私は長く石川啄木派で賢治は苦手だったのだが、30歳過ぎから急にその詩が面白く読めるようになってきた。読み方すら不明だった謎の文語詩の一節を振り出しに、賢治の生涯を丹念に追ってゆく。補助線として採用するのは、菅原千恵子の研究を下敷きにした「賢治同性愛者説」。徹底的にボーイズラブ読みに振り切って読解してゆくのが面白い。晩年に国柱会の教えを疑い始めていたという指摘も興味深い。

 (3)はまだ芸人として売れる前から執筆していたエッセイ。上京間もない頃に歩いてきた東京の色々な思い出の記録。「何者でもない」頃に書いたものだからだろうか、私は又吉直樹の著作の中でこれが一番好きだ。各話ごとに長短がまちまちなのがいい。依頼されての連載ならこんなことは起こらない。巻頭の「武蔵野の夕陽」が、笑いと叙情を高いレベルで両立していて素晴らしい。=朝日新聞2020年4月25日掲載