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「BTSを読む」インタビュー 新しいのに懐かしい?次世代K-POPに全米が熱狂する理由

文:吉野太一郎 画像:『BTSを読む』(柏書房)より

BTSはなぜアメリカを熱狂させるのか

――BTSを知り「これは大変な現象だ」と感じたのはいつごろですか?

キム 2013年のデビュー前から噂は聞いていました。韓国3大芸能事務所の一つ、JYPエンターテインメント出身のパン・シヒョクという作曲家は業界で有名でしたから、そのパンがデビューさせる新たなグループだという程度の認識でした。

 翌年、たまたまネットで見たKCON(アメリカで開かれる、K-POPアーティストや韓流文化の紹介イベント)の出演者リストに、BTSの名前を見つけました。行ってみると、ショーケースも記者会見も、無名の新人BTSにものすごい多くの人が集まっていました。人数もそうですが、表情や熱狂的な反応から「何か新しいことが始まっている」と直感したんです。その後、BTSはアメリカで着実にファンを増やし、2018年のブレークの下地を作りました。

桑畑 私もデビュー当時から見ていましたけど、Block Bなど、当時デビューしたヒップホップ系アーティストの一つという感覚でした。2016年の来日時にインタビューしたときも、まだファンミーティングの会場の席には余裕がありました。やはり火がついたのは2018年、アメリカで評価され、いろんなメディアから「どんなグループなの」という問い合わせや執筆依頼が相次いだのを覚えています。

キム 当時、私はK-POPの方向性が変化しているのを実感していました。BIGBANGやBlock Bがアメリカで人気を得て、K-POP自体もEDMやダンスミュージックから、R&Bやヒップホップが主流になっていきました。それがアメリカ市場の趣向と合ったことが、BTS成功の背景ではないかと思います。

 BTSはK-POPが持つ、すべての遺産を相続しましたが、それに新たなものを加えた最先端の進化モデルです。ストーリー性が音楽同様に重視される、真摯な音楽という新たなモデルを実現したのだと思います。

――6月7日、オバマ前米大統領やノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさん、歌手レディー・ガガといった人々が集まるオンライン仮想卒業式に、BTSが登壇し「僕たちは一人だけど、いつもともにある」といったスピーチをしました。ユニセフのLOVE MYSELFキャンペーンで暴力反対を訴え、2018年には国連総会でも演説しています。BTSのメッセージを、国際社会が高く評価する理由は何でしょうか?

キム BTSは誰もが認めるスーパースターですが、一方で一人の若者として分かち合えるストーリーがあります。挫折、寂しさ、不安、不確実さ…。この日のBTSメンバーの演説も、自分たちの抱える不安を率直に打ち明けていましたが、それは卒業を控えた学生の心境でもあります。世界を舞台に活躍するBTSが、素直で日常的で、ある意味平凡なメッセージを投げかけることで、「悩んでいるのは自分一人じゃない」とわかり、力強い感動を呼ぶのです。BTSのメッセージは、国家や民族、宗教といった壁を完全に超え、アメリカでは他のどんな外国出身アーティストよりも大きな影響力を見せています。

桑畑 日本でもBTSはとても人気ですが、不思議なくらい、メッセージを受け止めて共感する人が多いですね。K-POPグループは、曲とダンスに加え、外見や礼儀正しさなどに親近感を感じる人も多いのですが、BTSのファンに聞くと、ほぼ全員が「彼らのメッセージがまさに今、私が悩んでいることだ」と答えます。彼らが発する言葉が、日本でも共感を呼んでいるんだと思います。

 さらに、スロベニアやハンガリーなど東欧や中東のファンにも話をきいたことがありますが、「つらいときにBTSの曲、歌詞が自分を救ってくれた」と語っていました。キムさんがおっしゃる通り、同時代の世界の若者が同じ悩みを抱え、メッセージに共感し、拡散する。それはSNSにも通じる特徴かもしれません。

――アメリカのファンにBTSの魅力を訪ねたところ、「ノスタルジー」と答えたそうですね。なぜ懐かしさを感じるのですか?

キム 最近、70代のARMY(BTSファンの総称)に会う機会がありました。この女性はファンになった動機や好きな理由を「いろんな理由でノスタルジーを感じるから」と表現しました。若くてダイナミックで、どこか素朴でナチュラルな姿が「青春に戻ったような気分」だからだといいます。

 BTSの音楽には「懐かしさ」があると思います。誰でも年は取っても、心の片隅に青春の気持ちを持っているでしょう。BTSが怒りや自分自身の感情をストレートに表現するのを見て、「自分もあんな頃があったなあ」と振り返る郷愁だと思います。

桑畑 青春の気持ちを思い出すのは、日本で韓国ドラマ「冬のソナタ」が大流行したときにとても似ていますね。ただ、異なるのは「冬ソナ」はたしかにレトロな雰囲気だったけど、BTSは音楽的には最先端であるということ。にもかかわらずアメリカのファンが懐かしさを感じるのは、メッセージが清潔で、まっすぐだからでしょうか?

キム 「アイドル」という特性上、健全で清潔で明るいメッセージを伝えるのがイメージに合っています。今の世代は昔より不安で不確実な青春時代を送っていますが、純粋さは変わりません。そういうストーリーを語るグループは必然的に、健全でハッピーである必要があるでしょう。

 さらに音楽は流行の最先端ですが、メッセージは古風なものがあると思います。哀愁、ロマン、悲しみ…。実はそれは、最近のアメリカでは見つけにくいものなのです。最近のアメリカの音楽はとても個人的で、内面に深く入り込む曲が多い。普遍的な価値や、善良なメッセージといったものは幼稚で時代遅れだと思われがちですが、BTSはむしろ、そうしたものへの懐かしさや不満を満足させてくれるから、多くの人に寄り添えるのではないでしょうか。

BTSの流行は、何で測れるのか?

――日本にいると、アメリカのBTS現象は実感しにくいものがあります。2012年にPSYの「江南スタイル」がビルボードの全米シングルチャート「HOT 100」で最高2位を記録しました。一方でBTSは、シングルでは4位が最高です。

キム ビルボードのHOT 100は伝統的に、ラジオの放送回数など、放送の力が強力に作用するチャートです。特にラジオでは、外国語の音楽はなかなか紹介されません。PSYはとても例外的なケースです。アメリカ社会はダンスとコメディーが好きです。K-POPかどうかは関係なく、ダンスを楽しみ、まねすることで広まった、一種の流行現象でした。

 BTSは、たとえばトラックの運転手や白人の中年女性といった、アジアに興味のない一般の人々が楽しむ音楽ではありません。ヒップスターと呼ばれる、特定の文化に敏感で、知識が豊富な人たちが集まる「ファンダム」によって支持されるグループです。こうした人たちがアルバムを買い、曲をダウンロードしてコンサートに集まります。その影響力は絶大で、数字にも表れますが、かつてのPSYと比べるのは、性格の違う現象でもあり、無理があります。

――かつて流行の音楽は放送で流れ、街で流れ、誰もが耳にできるものでした。最近はストリーミングやソーシャルメディアの普及で、音楽がどんどん個人的なものになり、流行を実感しにくくなっています。BTSの曲はダウンロード数やYouTubeの再生回数が話題になりますが、「流行歌」と呼べるのでしょうか?

キム 私はいわゆる「流行歌」の時代は終わったと思います。現在も、テレビのバラエティー番組などを通じて人気になる曲もありますが、昔のように、音楽がとても好きで、ラジオにリクエストを書いて送るような人々が流行をリードする時代ではなくなりました。ソーシャルメディアやストリーミングの登場で、音楽の楽しみ方もだいぶ変わりました。昔ながらの基準でBTSを流行歌だとか、流行歌でないと言うのは難しい時代になりました。

――ではアメリカのBTS人気は、どのような指標で測れますか?

キム 私は「ソーシャル・アーティスト」という指標がとても重要だと思います。2017年からビルボード・ミュージック・アワードで、ソーシャルメディア上で人気の高いアーティストに贈られる「トップ・ソーシャル・アーティスト」部門を3年連続で受賞しています。アメリカでも、ソーシャルランキングの高いアーティストが実際に人気があり、非常に公平で、民主的なプラットフォームだと思います。

 コンサートの収益や動員数も重要です。2018年のワールドツアーは12カ国42公演で計約104万人、19年も7カ国20公演で計約98万人を動員し、アメリカではローズ・ボウル(ロサンゼルス、約11万3000人)やメットライフ・スタジアム(ニュージャージー州、約9万8000人)などの巨大スタジアムを満員にしました。この規模自体、トップアーティストでも簡単にはいきません。

――それでも、テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーといったスターとは、まだ距離があると言えそうですね。BTSが肩を並べるための課題は何ですか?

キム BTSは2018年に初めて、グラミー賞の最優秀レコーディング・パッケージ部門にノミネートされました。グラミー賞は権威ある賞ですが、音楽業界のインサイダーたちが選ぶ賞です。テイラーやジャスティン、ワン・ダイレクションといったスターは、プロモーターやレコードレーベルがプッシュしまくるから放送され、人気が出る、いわば「システムの中で育てられた」スターです。

 彼らに認められるためには、社会的、文化的に無視できない大きな波を起こし、業界内のジャーナリストやレコードプロデューサーに「聴いたこともない新しい音楽だ」と思わせる作品を、一つではなく持続的に発表し、信頼を積み重ねることが重要です。アメリカ社会の人種的な偏見を、時間をかけて取り除くことも課題でしょう。

K-POPは「韓国の音楽」ではなくなっていく

――BTSの登場以前から、K-POPの全米制覇は、長い間試みられてきたことでした。

キム まずはYouTubeやソーシャルメディアなど「メディア革命」とも言うべき環境が整ったこと。韓国文化を同時代の人々がリアルタイムで接することができるようになり、それを題材にコミュニケーションも取れるようになりました。また、今は世界で多くの人が韓流を知っていて、ある程度なじんでいる状態です。「参入障壁」が低くなり、メッセージやビジュアルが、より自然に受け入れられているのだと思います。

 もちろん、過去にもソテジワアイドゥルやシン・ヘチョルなど、韓国に実力もあり、社会的な発言を積極的にするアーティストは数多くいましたが、私の世代まではアメリカや日本の背中を追うのが精いっぱいでした。現在のアーティストはBTSを含め、いわゆる「ポスト韓流」の世代です。グローバルな社会で世界のリーダーになろうという自信も責任感もあるのです。

――韓国の音楽産業が発達する過程で、海外の音楽文化や産業をどう吸収していったのですか?

キム アメリカと日本の影響を集団的に受けた部分が大きいと思います。アメリカからはロックやヒップホップ、R&Bを、かつてソウルにあった在韓米軍で公演して学んだ。ゴスペルなど、キリスト教文化の影響も大きかったでしょう。そして、音楽が産業化するにあたっては、日本の影響が最も大きかったと思います。シティー・ポップや日本のロック、R&B、ヒップホップや、SPEEDなどガールズグループの、都会的で洗練された音楽を受け入れ、今のK-POPができたと思います。

――SPEEDの例を挙げましたが、アイドルの育成システムも大きな影響を与えたのではないでしょうか?

キム その通りです。韓国3大芸能事務所の最大手、SMエンターテインメントのイ・スマン会長は、アメリカ留学で現地の音楽を学びましたが、その後S.E.S.などのガールズグループを日本でデビューさせ、ジャニーズ事務所やavexのシステムを直接学びました。今のK-POPの育成システムの相当部分は、ほぼJ-POPの「アイドル」から吸収し、より精巧に、今のグローバル社会に合うように変形させたものです。

 さらに宇多田ヒカルら、多くのJ-POPアーティストがアメリカ進出を狙って努力しましたが、ワンダーガールズや2NE1は、J-POPのモデルを参考にして海外進出しました。だから私は、基本的にK-POPは、J-POPとアメリカのハイブリッドのようなジャンルだと思っています。

――BTSの音楽は、世界各国の音楽家たちが協業しながら曲を作り上げていく、国際的な役割分担で知られています。K-POPを韓国の音楽だと言うことも、もはや難しくはないでしょうか。K-POPの「K」とは何でしょうか。

キム 予測は難しいですが、私は「K」という文字は大きな意味を持たなくなると思います。「K-POPファン」も現在は、K-POPなら何でも好きという雰囲気がありますが、BTSのように海外の作曲家も多数参加する、国際的な水平分業が「韓国の音楽」という側面を薄めていくのではないかという指摘は、的を射ていると思います。

 K-POP全体を見渡せば、中国語で歌い、中国市場向けに活動する中国人グループのように、最初から韓国で活動しないグループもあります。K-POPはテクニックの一つであり、モジュール、ツールのようなもの。韓国がその技術の元祖というだけで、もはや韓国だけが独占する文化ではなくなっていくでしょう。かつてアバやロクセットなどを世界に送り出した「スウェディッシュ・ポップ」のようになっていくかもしれません。

桑畑 日本でも、韓国の番組のフォーマットを活用したオーディションで勝ち抜いた日本人11人を、吉本興業と韓国のCJ ENMによる合弁会社が手がけるJO1や、ソニーミュージックとJYPによるオーディションから誕生した日本人9人のガールズグループ「NiziU」などが注目され、K-POPの定義が変わりつつあるようにも感じます。キムさんがおっしゃる通り、K-POPはテクニックとしてのジャンルになっていくのかもしれませんね。

――"Black Lives Matter"を巡っては、ARMYが1日で100万ドル以上の寄付金を集め、BTSが所属するビッグ・ヒット・エンターテインメントも100万ドルを寄付して注目されました。一方で活動が国際化するほど、特に日米韓での活動はファンダム間の温度差や、ときに民族的な感情などの敏感な問題に突き当たることがあります。今後、世界進出をめざすアーティストにとっても大きな課題ではないでしょうか。

キム "Black Lives Matter”には、BTSも他のアーティストも、素早く対応しました。もちろん心から賛同していることもありますが、グローバルなファンダムの敏感な反応を念頭に置いてのことではなかったでしょうか。

 今は特にPC(ポリティカル・コレクトネス)に対して、音楽家、または企業として考慮すべきことがあまりに多い時代です。K-POP自体がグローバル化する中で、予想もしていなかったことでした。問題が発生したとき、どんな表情をしたのか、どんな見解を表明したのか、果てまたどんな服を着ていたのかが大問題になります。K-POPとしても、リスナーが韓国人だけではないことを学んでいる段階です。

桑畑 アメリカのアーティストははっきりポリティカルな発言する人も多いので、そうした市場で音楽活動する以上、見て見ぬふりはできないと思うんですね。一方、世界中から注目を浴びる中、曲や発言が思わぬ議論を呼ぶこともある。そういう意味でBTSはここ数年、注意深く対処する方向に変わってきたと思います。

日本は「最も重要な市場」

――日本版向けのあとがきに、日本は「もっとも重要な市場」と述べています。アメリカで現地化することなく成功したBTSも、日本では日本語で歌い、CDを発売するなど伝統的な「現地化」戦略を踏襲しています。なぜですか?

キム 私が思うに、日本は多様な文化を受け入れ、それを自分たちのものに変えていく「日本化」への意識が強い国です。海外でどう見られるかより、国内市場、国内ファンを満足させようとしているように感じられます。だからK-POPが日本に進出するには、近づこうとする努力=現地化というプロセスが必要です。

 また日本語は韓国人にとって学びやすい。文法も似ているし、顔も似ているので親近感があります。政治や歴史的なことを除けば、最もK-POPを現地化しやすい国だと言えます。コンサートなどでも最初から通訳なしで日本語で話す韓国人歌手も多いですし、それが日本のファンに親近感を与えています。

 日本のファンはアーティストへの忠誠心がとても高いと思います。流行にあまりこだわらず、自分が好きなら、5年、10年たっても息長く支持し続けます。流行に非常に敏感で流行り廃りの激しい韓国に比べ、日本は長期間に渡って活動でき、確実に収益を得られ、ファンの共感も得やすい。K-POPにとって日本はこれからも、単一国家としては最も重要な市場です。ただ、BTSが現地化戦略をとらずに欧米で成功したことで、そうしたやり方も変わっていくのではないかという予感がしています。

桑畑 これは他国とは違う現象だと思うんですが、BTSに限らず日本のK-POPのファンダムはすごく熱くて、10年以上経っても兵役で活動を中断しても、ファンが50~60代になってもコンサートに来る。多分、ジャニーズ事務所などのアイドルが何十年も前から人気を得ていて、ファン文化が成熟しているからだと思うんですね。

 K-POPアーティストの海外進出は、2000年代初頭にBoAと東方神起が日本で成功したことで「現地化の成功伝説」のようなものが王道として今も生きているんです。日本は2019年の段階で、音楽コンテンツの売り上げのうち、約76%を音楽ソフト(CD・ビデオなど)がしめるんです。売るためにはテレビなどで日本語で話して、取り上げてもらうことも重要という雰囲気がありました。

 もう一つ、アメリカはダンス文化で踊れる曲が売れるのに対し、日本はカラオケ文化なので、日本語で歌える曲が人気です。KARAの歌みたいに全国的なヒットを狙うには、みんなに歌ってもらう必要があったのだと思います。もちろん、韓国語のままが望ましいという声も多く、ファンの間でも現地化には賛否両論があります。

 そんななか、6月に日本語オリジナルソング「Stay Gold」が世界同時配信され、80か国以上のiTunesランキング(ダウンロード)で1位となるという、新しい記録が生まれました。日本の市場も変わりつつあって、特に若い世代でダウンロードやストリーミングが普及しています。7月15日には、2年ぶりに日本オリジナルアルバム「MAP OF THE SOUL : 7 ~ THE JOURNEY ~」がリリースされますが、ワールドスターに成長したBTSに、日本、そして世界の市場がどう反応するのか気になります。

音声でもBTS沼を!

好書好日Podcast「好書好日 本好きの昼休み」では『BTSを読む』訳者の桑畑優香さんが、BTSを巡るとっておきのエピソードを語っています。

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