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フルポン村上の俳句修行 「オフショル」「粉ポカリ」を新しい夏の季語に【後編】

文:加藤千絵

 俳人の坊城俊樹さんを招いて企画した「フルポン村上の選句修行2」で、村上さんの特選句になった彼方ひらくさんから、句会のお誘いをいただきました。岡山在住のひらくさんが、俳句のイベントやツイッターで知り合った仲間と始めたZoom句会「うかれ猫句会」は、毎回ちょっと変わった兼題が出るのが特徴です。村上さんが参加した6月20日は、25画以上の漢字を詠み込む「漢字の座」と、「季語提案の座」、当季雑詠の3座でした。

>【前編】桃太郎を話す鸚哥、子だくさんの親鸞・・・25画以上の漢字を詠み込む「漢字の座」はこちら

 「季語提案の座」は、季語ではないけれど夏の季語にふさわしいと思う言葉を入れて「季感」のある句を作り、講評します。「天(3点)」「地(2点)」1句ずつを選句した結果、最高点の12点を獲得したのは、洒落神戸さんの「オフショルや都会に満つる反射光」でした。オ・フ・ショ・ル!

野良古(のらふる):最初、オフショルと都会と光がちょっと平板なのかなと思って選外にしてたんですけど、直前にやっぱすごくいいなと思って天にしました。この人はたぶん、自分がオフショルで反射光を見てるだけじゃなくて、出てる肩とか腕のところで都会の反射光の熱を感じてるんだな、って思ったときに、触覚的にもいい句だなと思っていただきました。

笑松(わらいまつ):光に当たってツヤツヤの肌も反射してるな、っていう感じも含めていいなと。夏の強い日差しを感じさせて、その中で自慢の肩が光ってる感じがとてもよくて取りました。

土井探花(欠席につき、ひらくさんが代読):オフショルを季語とし、基本の型にはめることで一句に説得力がある。「満つる」にもう一工夫ほしかった。

北野きのこ:「都会に満つる反射光」っていう素地に対して、何を取り合わせるかで雰囲気とか光景が変わってくると思って。これはオフショルならではの都会的な感じとか、肩を出してちょっと大胆な感じとか、光との相乗効果とかが演出されてるなって感じていただきました。

下から2段目、左から2人目が「うかれ猫句会」主宰の彼方ひらくさん

彼方ひらく:ではこの人気句、作者はどなたでしょうか?

洒落神戸:洒落神戸です。

一同:「さすが神戸です」「おしゃれです」

洒落神戸:大好きなオフショルを季語に提案したいなと。手法的にはまず、オフショルは決まってると。べっぴんさんの若い女の子で。これを海にもっていくのか山にもっていくのか、田舎なのか都会なのかってときに、やっぱり都会にもってきたいなと。村上さんはオフショルお好きですか?

村上:僕は、そこまでではないんですよ。僕は見えてないものの方が好きなんですよ。透け感とかの方が好きなんです。露骨な露出ってものにはあんまり感じないんです。

一同:(爆笑)

洒落神戸さん

「ジェラート」や「自由研究」も季語に!

 ほかにも、ユニークな季語の提案がありました。

・アンクレット:「砂を蹴るアンクレットに小(ち)さき貝」(あるきしちはる、10点)
・猫開く:「先代と同じ厨に猫開く」(大槻税悦、8点)
・ジェラート:「ジェラート越しに少年のふと会釈」(七瀬ゆきこ、7点)
・ペットボトル:「ペットボトルに命がつまりすぎている」(野良古、5点)
・照り返し:「モノレール降りて遥けし照り返し」(笑松、5点)
・自由研究:「石拾う自由研究のために」(青海也緒、3点)
・イルカショー:「イルカショー先ずはごひいき濡らすらし」(彼方ひらく、2点)

 「猫開く」は暑いときに冷たい台所の床などに広がっている猫のこと、「ペットボトル」は「夏に冷たい飲み物を入れてるのが、ペットボトルが1年で最も輝く時期」など、さまざまな意見が交わされました。ジェラートは、「アイスが季語ならジェラートも季語と言い張ってしまえばいい。誰かがもう決めてほしい!」と村上さん。その村上さん提案の「粉ポカリの袋の角で君突く」も4点と好評でした。

青海也緒:「月がきれいですね」が「アイラブユー」の日本語訳であるように、それを現代語版にしたらこれじゃないのかっていう。どういう距離感か分からないけども、突っついてる人は相手のことを絶対に好きだろう、っていう空気感が好きでした。

香野さとみZ:粉ポカリなので部活かなと思いました。村上さんの句だと思うからいただいた訳ではなくて(笑)、ありそうでないような絶妙な景がいいと思いました。

村上:これ僕です(笑)。まさにおっしゃったように、部活のウォーターサーバーみたいなものに粉ポカリをマネージャーが入れるという。入れる前でも後でもいいけど、粉ポカリの袋ってちょっと堅いんで、刺すにはちょうどいいというか。もう僕、男女が刺し合ったらそれは恋だと思ってるんで。僕ができなかった青春のあこがれの一ページですね。

神が宿っている「アイヌねぎ」

 そして最も気持ちのこもった提案があったのは、9点を集めた北野きのこさんの「柏手一つ打つてより摘むアイヌねぎ」でした。

クラウド坂の上:「アイヌねぎ」っていうのは行者にんにくの芽みたいな感じで、ふきのとうみたいに生えてくるらしいんですけど、命の中に、すべての生き物に神が宿っているっていうアイヌのアニミズムの考え方、それがきちっと反映されていて。(人気漫画の)『ゴールデンカムイ』でアイヌのいろんなことが有名になってきましたけど、景がまざまざと浮かんで、心が清浄な気持ちになるような気がして好きな句です。

七瀬ゆきこ:私は今日、この句を言祝ぐために来ております。アイヌねぎっていうのは、私が北海道に住んでいたときには差別用語で、アイヌは臭い、アイヌねぎってことだったんです。それで「アイヌねぎと言わずに行者にんにくと言え」と言われていた時代があるんですけど、アイヌ民族から学ぼうっていう時代の中で季語として提案されてるっていう背景も見えて、ぜひ推したいと思って天に取りました。

北野きのこ:(差別的な呼称について)僕は内地出身なので、10年以上北海道に住んでて全然知らなかったんですけど、どうやら蔑称の意味がかつてはあったという話をちょっと前に聞いて。でも字面として、アイヌのねぎみたいな風味の山菜っていうだけで、なんだか変な意味を込められるのは間違ってるなと僕は個人的に思っているので、この呼称がスタンダードになって問題ないんじゃないかなと思っています。

北野きのこさん

この日、得点の多かった3人を発表!

 この後「当季雑詠の座」を開き、約2時間半の句会を終えました。3座の合計点が一番多かったのは、「非暴力主義ですパイナップルに芯」という一句で18点という圧倒的な点をたたき出した桃猫さん。2位はあるきしちはるさん、そして3位はなんと、「富士そばで世界を貶(けな)す夏未明」で最後に7点を加算した村上さんでした。

北野きのこ:これはたぶん若者なんだろうな、夜通し遊んで朝方ベロベロに酔っ払って、何人かでたむろして、そばでさっぱりしようか、みたいな状況なんじゃないかなと。そういう図っていうのは、あるある感もありつつ共感もありつつ、たとえばこれが春だったりすると、「やってやるぜ」っていう希望が先に立つと思うんですけど、「夏未明」だとこっから暑い日中が始まるんだな、っていうのが現実に戻っていく感じが強いな、って僕は読みました。

洒落神戸:富士そば、24時間営業のチェーン店のそば屋なんですけど、たとえばこれを吉野家とか牛丼屋にしても成立すると思うんですけども、まず富士そばの「富士」が「世界」と響いてるのと、富士そばって東京とその周りにしかなくて、僕の地域では食べれないんですね。だからイメージ的には、東京の若いやつが富士そばで世界のことを貶してると。しかも夏未明っていう日が明ける前なんですけど、これを朝動き出した人ととるのか、夜の動きの残ってる人ととるのか考えると、やっぱり若い子らが徹夜で、始発とか待ちながらうだうだやってる世界観が好きでした。

村上:ありがとうございます。これはもう、自分が若手芸人だった頃に深夜稽古とかして、タクシーに乗るお金がないから始発まで待つしかないとか、経験ですね。夏の若者は夜遊んだら朝まで待つしかないし、だいたい朝方若者が富士そばに集まったら文句言うしかないんです(笑)。

句会を終えて、村上さんのコメント

 兼題がむずかしかったので、最初自分で作るときはめちゃくちゃ戸惑いましたけど、こんだけ限定されると制限なかったら作れなかっただろうな、って句ができたからよかったです。単純にいろんなゲーム性をつけた方が楽しいし、ストイックなものだけで勝負しましょうよ、っていうのはしんどくなりますからね。

 みなさんがおもしろいものを持ってこよう、っていう意欲が俳句からすごく感じて、いいなと思いました。うまさを見せてやろう、っていう戦い方もあるんでしょうけど、そうじゃなくて「こんなワードちょっと持ってきました」とか、「普段の生活でこんなことがあったから俳句に採り入れてみました」という、いい意味でコミュニケーションが俳句に表れてるのが、僕はすごくすてきだなと思いました。

【俳句修行は次回に続きます!】