ライトノベル、中でもラブコメといえば、高校生たちを筆頭に10代を主人公に据えるのがセオリーに見える。しかし最近では社会人を主役に置いた変わり種も見かけるようになってきた。栗ノ原草介『結婚が前提のラブコメ』もそんな1作だ。本作の主人公、白城(はくじょう)縁太郎の職業は結婚相談所の仲人。タイトルどおり、結婚相手を求めて相談所に訪れたヒロインのために奮戦する婚活ラブコメだ。
そうは言っても、縁太郎の相談所は、芸能人をイメージキャラクターに巨額の宣伝を打てるような大手とはほど遠い、個人経営の零細だ。それでもやっていけるのは料金の安さと「結婚できない人を結婚させてしまう仲人」という評判あってのこと。だがそれは他の相談所では成婚が難しそうな会員ばかりが集まるということでもある。顧客には玉の輿(こし)一点狙いの没落令嬢に、性表現の探究に情熱を燃やす成年マンガ家、あふれる包容力ゆえにダメな男ばかり引き寄せる保育士と、なかなかに個性的な女性がそろっている。
一見、完璧な美少女だが実は人に言えない趣味や難儀な性格を抱えていて……という「残念」なキャラクター造形はライトノベルの定番の一つだが、婚活となるとその残念さも一層深刻である。そんなヒロインたちの幸せのために縁太郎は働くのだが、婚活の具体的な内容などのディテールはお仕事小説として興味深い。会員の幸せのためなら自己犠牲も顧みない、仲人・縁太郎の活躍ぶりも爽快だ。
「趣味は女子高生」の女性科学者・水無月(みなづき)結衣の白城結婚相談所への入会を描いた1巻に続き、6月に発売された2巻では、結婚による上流階級への復帰を目指す元お嬢様・早乙女カレンの婚活事情が描かれる。愛と金という現実的なテーマに真っ正面から挑めるのもこの題材ならではだ。一方いよいよラブコメらしい構図が固まってくるのも本巻。縁太郎が、自身の仲人という立場とどのように折り合いをつけるのか、これからが著者の腕の見せどころだろう。
10代がメインターゲットと言われてきたライトノベルだが近年ではその読者層も多様化してきている。本作のような作品が生まれる理由には、そんな背景もあるだろう。評者が年金をもらう頃には、終活ライトノベルなども書かれているかもしれない。=朝日新聞2020年7月18日掲載