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雑誌「建築知識」 美少女、幻獣…キャラで攻めつつわかりやすく

 私は今静かに感動している。何に感動しているかというと『建築知識』という雑誌にだ。

 このところ『建築知識』が攻めているという噂(うわさ)はなんとなく耳に入っていた。書店で確かめてみると、なるほど表紙にアニメタッチのキャラクターが描かれていて、建築現場のむくつけき男の世界や、住宅雑誌のスタイリッシュさとはまた違うイメージで誌面づくりがなされているようだった。

 しかし、最新号の特集が「美少女と学ぶ! 木造住宅の現場写真帖(ちょう)+ビデオ」ってどうなのか。そこに美少女必要? さらにバックナンバーを見ると「かわいい動物に学ぶ 建築くらべる図鑑」だの「幻獣キャラクターで学ぶ建築基準法」だのしまいには「猫のためのDIY家づくり」って。たしかに攻めているのだろうけど、いったいどこを向いて作っているのかと訝(いぶか)しく思ったのである。

 ところが、誌面を開いて読み始めると、意外にもこれがとても読みやすい。

 私は建築業界の人間ではないので、記事の内容がどのぐらい実地に役立つのか実感としては判断できないけれども、ものの名称まで細かく書き込まれた写真やイラストが部外者にもわかりやすく、自分の仕事と直接関係ないのに資料としてとっておきたいぐらいに思ったのである。

 何でも美少女やマスコットキャラに語らせておけばとっつきやすいだろうという昨今の風潮には、昭和のおじさんとしていまいましさしか感じない私だが、どうしたわけかこの誌面は嫌味なくするすると頭に入ってきた。

 読みやすさの理由は何なのか。

 まず特集がひとつしかなく、誌面の4分の3以上を占めているのが大きい。木造住宅の建築について知りたいと思って手にとった読者には、関係ないことが書いていないからわずらわしくないだろう。連載記事もあるものの、終わりにちょっと箸休め程度に出てくるだけ。その意味では月刊誌というよりムックのような構成と言える。

 それと特集誌面がオールカラーで、基本的なこととはいえ、レイアウトがかっちりと読みやすいこと。図や写真が豊富で理解がしやすいこと。

 言葉にしてみれば何も特別なことではない。にもかかわらず好感を持ってしまうのは、誌面づくりの根底に感じられる、読みやすさへの強いこだわりゆえだろうか。本好きとしては今年1月号の「世界一美しい本屋の作り方」特集も読んでみたくなった。さりげなくそのような特集を組むところにも、秘めた情熱を感じるのである。=朝日新聞2020年10月7日掲載