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「スポメニック」 旧ユーゴスラヴィアに残る巨大でキテレツな記念碑

モンテネグロ・ニクシッチにある「第2次世界大戦戦死者慰霊碑」(1987年) Photographs by Donald Niebyl,Spomenik Monument Database

 サダム・フセインの銅像をはじめ、政治体制が変わると倒されるシンボルは多い。しかしこの本には、共産主義下の旧ユーゴスラビア圏に建てられながら、今も残る「スポメニック(記念碑)」が81件、収められている。

 1960年代から90年代の制作らしいが、巨大にして造形がキテレツ。幾何学的、鋭角的な抽象像で、重力に抗して天に向かうようであったり、うねったり。多くが荒々しいコンクリート造で、ロシア構成主義の影響も漂う。

 枢軸国に打ち勝ち、多民族、多宗教で構成された旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国にあって、「同胞愛と統一」を構築するためだったようだ。建築家や彫刻家が動員された気宇壮大なデザインは、「未来」や「ユートピア」が表向き存在していたからだろう。

 銅像と違い、具体的な事物や価値観を示さない抽象像だから、生き残ったのか。一方で強烈な個性を備えた記念碑は、素材や造形において、時代の精神を象徴している。=朝日新聞2020年11月7日掲載