読み聞かせは絵本の完成形
お父さんティラノサウルスや、パパになったウルトラマンの悪戦苦闘ぶりを描いて人気の絵本作家、宮西達也さん。「絵本は読み聞かせてこそ完成する」が信条なだけに、授業も自著の『はーい!』(アリス館)や『うんこ』(鈴木出版)、『おっぱい』(同)、『まねしんぼう』(岩崎書店)の読み聞かせから始まった。
作者自らの読み聞かせに「やっぱり面白い!」と、声をあげて笑っていた6年生たちだが、「この本にはいろんな生き物のうんこが出てくるよ。だからみんなで言おう、う・ん・こ!」。そんな呼びかけには、しーん。
「おっぱいは、みんな好きだよね!」。これにも完全に、しーん。
6年生ともなればそう簡単に、「うんこ」「おっぱい」なんて人前で言えないのだ。
「おっぱいはエッチなんていう子もいるけれど、誰でも生まれた時に初乳っていう、お母さんのおっぱいを飲んでいるんだ。だから大きくなれたんだよ」と宮西さん。
なるほど。それにしてもこの日の選書、高学年にとっては幼い内容では?
その真意は授業の最後に明かされた。
夢のせて羽ばたけプテラノドン
宮西さんの絵本にはいろんな恐竜・翼竜が出てくる。プテラノドンの子もそのひとつ。「今日はこれを作ってみよう」。見本を見せると「すごーい!」。背中にタコ糸が通され、吊るすと翼が上下して羽ばたいているように見えるのだ。
みんなも挑戦。まず、色画用紙を丸めて筒にし、カラフルなガムテープで止めて胴体にする。次に両端に切り込みを入れ、くちばしとおしりを作る。「友だちと協力しながら作って」
これが意外と難しかった。丸め方によっては細い胴体になったり、太っちょになったり。くちばしも、鋭くとがったり、おちょぼ口になったり。
「性格が出るなぁ」と言いながらも、早くできた子は手間取っている友だちを手伝う。宮西さんもハサミ片手に「もう少し切ろうか」などアドバイス。机の間を走り回る。
胴体ができたら、違う色画用紙で翼、手足、トサカを作り、「あとは背中にギザギザをつけてもいいし、ベロを作ったり、キバをはやしてもいいです。マジックで模様を描いたりして、好きにデザインして!」。
すると、ノコギリの歯のような羽を持つプテラノドンになったり、翼に丸みを持たせた優雅なプテラノドンができたり。「見て」「めっちゃカッコいいやん!」。助け合って見せ合って、個性はそれぞれでもみんな仲良しだ。
最後は目。厚紙を切って目玉を描いたら、宮西さんのところに持っていく。「悪そうな目だな~」「ちっちゃい目、かわいいいね!」。一人ひとりに声をかけながら、接着剤で貼りつけていく。
丸山尚子さんは、「すごく楽しかった。私は作っているうち、プテラノドンに優しいイメージがわいたので、目も優しそうにしました」。引土晴陽(ひきつち・はるひ)くんは、「工作は苦手やけど、今日は違った! 面白かったし、なんか簡単にできた」。
夢をあきらめる方法ならある
最後は、これから中学生になるみんなに、「なぜ僕は絵本作家になったのか」を明かした。
宮西さんは美大生時代、人形劇の制作事務所でアルバイトをしていた。ある日、その事務所に絵本の制作依頼がきた。アシスタントとして何枚も下絵を描くうち、絵を描くことが大好きだった小学生時代を思い出した。「絵本っていいな。絵をたくさん描けて」
大学卒業後、就職してグラフィックデザイナーになったものの、絵を作品にするチャンスはほとんどなかった。
思い切って会社を辞め、絵本を作っては出版社に持ち込んだ。でも、絵が下手だと言われて終わり。貧乏にあえいでいたら、「へんてこな絵だけど出版してみるか」と、手を差し伸べる社が現れた。
「自分の本が書店に置かれているのを見た時は、天にも舞い上がる気持ちでした」。しかも、見知らぬ親子が手に取って「アハハ!」と笑っていた。
「今でも忘れられない光景。嬉しかったし、ありがたかった。けれど、それ以上に、買え、買ってくれ~!って念じていた」。これには子どもたちも大笑い。苦労話も宮西さんの手にかかると爆笑に変わるのだ。
「夢をかなえない方法ならあります」と、宮西さん。「それは、あきらめること」
批判されたり却下されたりして、夢を手放してしまったらそこで終わり。「あきらめなければ、必ず助けてくれる人が現れる。僕の場合は編集者でした」。
さらに、「今日わかったのは、誰一人として同じものを作る人はいなかったこと。それは感性が違うから」。
自分の感性を信じて、努力する、あきらめない。それが大切だと説く。「だから、自分とは違う感性の人だなと思っても、認め合ってほしい」。イラストレーターになるのが夢の岡田瑠香さんは、「夢をかなえるためには何が大切か、すごく印象的なお話でした」。
そして、読み聞かせした本について宮西さんはこう語った。「出版社は絵本を、赤ちゃんや幼児向け、みたいに売り出すけれど、そんなことはない」。読み返した時の感性で、子どもの頃とはまた違った読後感がある。絵本は年齢を選ばないのだ。
かつてはお父さんやお母さんに読んでもらった絵本を改めて読んで、その作者に会って、一緒に創作までした子どもたち。家に帰ったらどんな話をするのだろう。