1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 都市伝説が招く惨劇 「ノゾミくん、こっちにおいで」など杉江松恋さんが薦める新刊文庫3冊

都市伝説が招く惨劇 「ノゾミくん、こっちにおいで」など杉江松恋さんが薦める新刊文庫3冊

杉江松恋が薦める文庫この新刊!

  1. 『ノゾミくん、こっちにおいで』 水生大海(みずきひろみ)著 ポプラ文庫 748円
  2. 『頭の中の昏(くら)い唄』 生島治郎著 竹書房文庫 1430円
  3. 『ローンガール・ハードボイルド』 コートニー・サマーズ著 高山真由美訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1408円

 (1)夜八時、海のそばで合わせ鏡を作ると、鏡の中からノゾミくんが現れ、どんな願いごとでも叶(かな)えてくれるという。そんな都市伝説を実行に移した十五歳の菅野由夢(かんのゆめ)が、校舎の屋上から転落して死亡した。友人のスマートフォンに「のぞみくんにころされる」というメッセージを残して。

 無邪気なおまじないのはずだったものが禍々(まがまが)しい脅威となって襲い掛かってくる。そんな恐怖を描いた作品であり、SNSで流れる噂(うわさ)のような危ないものにもすがってしまう、若者たちの不安定な心情が惨劇を通じて描かれている。

 (2)生島治郎は硬質な犯罪小説で知られる作家だが、「奇妙な味」と総称される短篇(たんぺん)の名手でもあった。そうした作品を収めた短篇集だ。表題作は、勤め先での圧迫から精神の均衡を欠き始めた男が、童謡を歌い続ける少女の姿を幻視する物語である。男が非現実の側に一歩踏み出したところから、物語は激しく歪(ゆが)み始めるだろう。布に落ちたインクのしみのような、輪郭のはっきりした場面が各篇にある。読んだ人の心に棲(す)みついてしまう一冊だ。

 (3)妹を義父に殺害された十九歳の少女・セイディは、復讐(ふくしゅう)の決意を固めて姿を消す。事件を注視してきたラジオDJのマクレイは、さらなる悲劇を防ごうとして彼女を追跡する。アメリカ探偵作家クラブ賞など複数の栄誉に輝いた本作は、暴力の犠牲になるのが常に女性や未成年者など弱い者であることに抗議の声を上げ、反撃を試みようとする物語だ。切実な声に耳を傾けたい。=朝日新聞2020年12月12日掲載