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加藤シゲアキ「オルタネート」 正統派の青春群像劇、力強く

 クライマックスの盛り上がりが素晴らしい。視点人物が目まぐるしく移り変わるカットバック。場面が切り替わる度に熱量と疾走感が増し、畳み掛けるように読者に迫ってくる。

 終盤でのこの盛り上がりを可能にしたのは、そこに至る道筋の丹念な描写だ。

 オルタネートとは高校生限定の架空のマッチングアプリの名前。SNSでつながった中から相性の良い人を探すというもので、物語はこのアプリと3人の若者を軸に進む。

 円明(えんめい)学園高校の3年生で調理部の部長を務める新見蓉(にいみいるる)。高校生の料理コンテストに2年連続で挑む。オルタネートでデマを流された経験があるため、アプリは使っていない。

 伴凪津(ばんなづ)は同校の1年生。母子家庭に育ち、絶対不変の愛を求める意識が強い凪津は、オルタネートの遺伝子サービスを利用したマッチングにのめり込む。

 楤丘尚志(たらおかなおし)は大阪の高校を中退し、ドラムをやるために上京。高校生でなくなった時点でオルタネートの利用資格を失った。

 部活、恋愛、音楽。それぞれ情熱を傾けるものを通して自分とは何なのかを知っていく、正統派の青春群像劇だ。肥大した自意識を持て余し、他人の評価を気にし、保証を求めたがる若者たち。ラストで三つの流れが交錯し、スパークする。

 これだけでも充分読ませるのに、上手(うま)いのはそこにSNSを絡めたことだ。オルタネートをやらない蓉、依存する凪津、やりたくてもやれない尚志。アプリへの向き合い方は異なるが、彼女たちは皆、誰かと出会い、衝突し、そこから新たに関係を築こうとする。SNSが必須ツールとなった現代、人と出会うためのSNSを通して、本書は逆説的に、大事なのは出会い方ではなく出会った後にどうするかなのだと訴えかけてくる。

 受賞こそ逃したものの、本書は直木賞の選考会で高く評価された。決して知名度先行ではないことを証明した、力強いビルドゥングスロマンである。=朝日新聞2021年2月6日掲載

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 新潮社・1815円=7刷14万5千部。2020年11月刊。本屋大賞と吉川英治文学新人賞にもノミネートされている。