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ハート団、血ユリ団の実態とは 「不良少女伝」など安田浩一が薦める新刊文庫3冊

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『明治・大正・昭和 不良少女伝 莫連(ばくれん)女と少女ギャング団』 平山亜佐子著 ちくま文庫 990円
  2. 『わたぶんぶん わたしの「料理沖縄物語」』 与那原恵著 講談社文庫 682円
  3. 『ストーカーとの七〇〇日戦争』 内澤旬子著 文春文庫 1023円

 (1)帝都に悪の華が咲く。「ジャンダークのおきみ」の異名を持つ女性が率いたのは「ハート団」。東京駅前の丸ビルを根城とする不良チームだ。「青年を弄(もてあそ)び、金品その他を奪いとって居た」と当時の新聞は書く。芝公園では「女愚連隊赤旗組」が闊歩(かっぽ)し、カフェーで「モンスター会」が暴れ、「血ユリ団」は映画館で恐喝を繰り返した。本書は戦前に世間を騒がせた不良少女たちの足跡を追う。女性が今以上に抑圧されていた時代。ファシズム前夜の東京を、すれっからし(莫連女)が駆け抜ける。せつない息遣いが路上に響く。

 (2)料理が沖縄の風景を立ち上げる。五臓六腑(ろっぷ)に沖縄が沁(し)み入るような食のエッセー集だ。すば(そば)、らふてぇなど、美味(おい)しそうなテーマが並ぶ。食事しながら、作り手の話に耳を傾けながら、著者は沖縄の歴史と人を手繰りよせる。そう、本書は料理を通した出会いと別れの物語でもある。わたぶんぶん(沖縄方言でおなかいっぱいの意)な満足感で、私もまた一歩、沖縄に引き寄せられた。

 (3)著者が交際相手の男性に別れを告げたことから地獄は始まった。男性がストーカーに急変する。携帯電話が鳴りやまない。ひっきりなしにSNSが送り付けられる。こらえきれず警察に相談すると、男性が名乗っていたのは偽名、しかも前科持ちであることまで判明した。恐怖と闘いながら、それでも冷静に記録を続けた著者の勇気には脱帽するしかない。闘いの記録は、被害者に無理解な社会にも警鐘を鳴らす。=朝日新聞2022年4月30日掲載