『二大政党制批判論』から『くじ引き民主主義』まで、意外な角度から政治論壇の活性化を試みてきた。本書も意表を突く。フランスの1968年5月革命を「反革命」のドゴール大統領を通して追い、彼の思想に革新性すら認めるのだから。
「5月革命はリベラルな価値観の源です。ただ、現在のリベラリズムは論理より強度が意味を持ち、私には消化しきれない。ならば学生とドゴールの中間に自分を置いたら、どちらに共感するだろうかと」
5月革命の「平定」のため、ドゴール派が「街頭に対して街頭で応える」と数十万人のカウンターデモを仕掛け、直後の下院選挙で圧勝したことはよく知られている。ところが翌年4月、上院改組と州議会設置という極めてわかりにくい国民投票を実施し、否決されて退陣に至る。なぜそんな道行きになったのか。
フランスを解放したドゴールは古くから「参加」という理念を掲げ、国民投票が伝家の宝刀だった。5月革命に対処する中で「一層の制度的民主化」に賭けた、とみる。「ドゴールはプラグマティックで戦略的な判断をする人でした。しかし、国民投票はボタンの掛け違いだった。5月革命は個人の生き方の問題であり、文化闘争でもあった。学生が求めていたのは新しい政治で、古い政治への参加ではない」
逮捕された学生の調書をパリ警視庁で筆写し、旧パリ大学ナンテール校が所蔵するビラを読むなど、一次史料はフランスで幅広く集めた。
「政治史は研究者としての本業ですが、歴史は自分の政治的な判断を相対化してくれる。時代の移り変わりで善が悪になり、価値観も180度変わるのが歴史です。定期的に歴史にどっぷりつかるのはとても大事な作業。そうしないと判断する時の勘も生まれてこないんです」(文・村山正司 写真・MIKIKO)=朝日新聞2022年5月21日掲載