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壮絶な取材の舞台裏を明かす「何が記者を殺すのか」など三牧聖子が選ぶ注目の新書2点

「何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から」

 国境なき記者団発表の最新の報道自由度ランキングで日本は71位。斉加尚代『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』(集英社新書・1034円)は、「バッシング」等(など)の作品を通じ、記者への不当な圧力に立ち向かってきた著者が、壮絶な取材の舞台裏を明かす。「記者を殺す」のは誰か。政治権力だけではない。政治家の犬笛にノリで呼応し、バッシングに興ずる匿名の人々。エンターテインメント化する情報番組。当事者たることを忘れ、傍観者となった市民。本書は民主主義の複合的な危機を生々しく突きつける。
★斉加尚代著 集英社新書・1034円

『人種主義の歴史』

 平野千果子『人種主義の歴史』(岩波新書・1034円)は、世界史的な視座から人種主義を探求する。昨今、世界各地で歴史上の偉人が「人種主義者」と糾弾され銅像の撤去が進むが、平野は人種主義とは、特定の人々の問題ではないと強調する。人種主義は、日常で私たちも無意識に加担し、善意にも潜む。ロシアに侵攻されたウクライナへの連帯は、欧米メディアでしばしば「青い眼(め)で金髪の人びと」への連帯として表明された。善意に潜む人種主義の典型といえる。壮大なスケールの本書を読み終えた後、読者は、人種主義を身近な、自分の問題として再発見するだろう。マクロな視座とミクロな視座の絶妙な融合に本書の魅力がある。
★平野千果子著 岩波新書・1034円=朝日新聞2022年5月28日掲載