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舘野鴻さん「ソロ沼のものがたり」インタビュー 虫たちを通して生を問う

舘野鴻さん

 徹底した観察と、執念を感じるほどの細密な筆致で、虫の生き様を克明に描き出してきた。そんな絵本作家による、初の連作短編集だ。夜間学校に通うバッタの小僧、飛べないジャコウアゲハの恋など、山野の生き物を主人公にした9編が収められている。

 カエルが子ガエルをのみ込んだり、オサムシ同士が殺し合い、相手をむさぼり食ったり。ときに容赦のない描写には、自然の摂理を長年見つめてきた作者らしさが表れている。「人間だったら、とんでもない物語。虫だから描けるんです」

 生き物の擬人化には、もともとは抵抗があったという。「よく似た虫同士でも、種が違えば生態も形態も違うし、そうなった歴史と理由がある。人間が勝手にキャラクターづけしてしまうのは、生き物に対して失礼だと思っていた」。しかし、擬人化するからこそ、伝えられることがあると考えるように。今作でも、懸命に生き、命をつなぎ、死んでいく虫たちの姿を通して、生のありようを静かに問いかける。

 繊細で美しい挿絵は、読者の自由な想像を妨げないよう登場する虫たちの姿はあえて描かず、風景や植物の描写にとどめている。

 「生きているのは当たり前じゃない」と、語気を強めて言う。そして、虫やその死骸を「きたないもの」のように扱うことに憤りを隠さない。「死んでいるということは、生ききってそこにいる。生まれて死ぬのは、俺たちだって同じ」

 しかし作品で、主張を声高に叫ぶことはない。言いたいことが山ほどあっても、ぐっと潜ませるだけだ。

 「黙って、何かを言う。念力のように、にじみ出す。その部分こそが伝わるものだと思いますし、そうして初めて、読者と交わることができるのでは、と思っています」(文・松本紗知 写真・岡田晃奈)=朝日新聞2022年7月9日掲載