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トマトスープ「天幕のジャードゥーガル」 知は力、モンゴルの「魔女」描く

©トマトスープ(秋田書店)2022

 時は13世紀、ユーラシア大陸を支配したモンゴル帝国で「魔女」と呼ばれたファーティマ・ハトゥンをモデルに、一人の少女の数奇な人生を描く。……などともっともらしく書いてみたが、本作を読むまでファーティマという人物のことはまったく知らなかった。

 物語は、イラン東部の町で奴隷として買われた少女が、その家の息子に知識の大切さを教わるところから始まる。奴隷の身ながら教養を身につけ、未来に希望を抱き始めていた彼女の生活は、しかし、モンゴル軍の侵略により一変する。捕虜として連行される道中、恐怖と絶望から生きる気力を失う少女。が、とある出会いを機に絶望は怒りに変わり、知略を武器に生き延びようと心に誓う。

 そこから王妃の側近となり、のし上がっていくはずだが、それはまだ先の話。主人公のみならず、同じ奴隷やチンギス・カン一族の王妃となった女たちにもスポットを当てる。あまりなじみのない文化・習俗も独特のレトロポップな絵柄でとっつきやすい。

 作者は17世紀の探検家を主人公とした『ダンピアのおいしい冒険』も連載中。その着眼と博識には敬服だ。どちらも「知は力」を体現した大人の学習マンガである。=朝日新聞2022年9月17日掲載