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谷川雁「原点が存在する」 革命の時代を遠く離れて

 1960年代末、全共闘の学生らが占拠した東大安田講堂の壁には、「連帯を求めて孤立を恐れず」という落書きがあった。詩人で思想家、革命のオルガナイザーでもあった谷川雁(がん)(1923~95)の言葉だ。

 その代表的評論集『原点が存在する』の新訂版が出た。初刊は58年。版元を変えて幾度か刊行されたが、長く入手しにくかった。

 暗喩と反語をちりばめた詩的な言葉で、革命運動の原理を説いた。ひどく難解。それでも、読む人を引きつけた。表題の評論にはこうある。

 〈「段々降りてゆく」よりほかないのだ/下部へ、下部へ、根へ、根へ、花咲かぬ処へ、暗黒のみちる所へ、そこに万有の母がある。存在の原点がある。初発のエネルギイがある〉

 ともに熊本県の水俣育ちの石牟礼道子は、作家になる前から交流があった。この評論について、「あ、それは雁さんわたしです」。我がことのように思って読んだというエピソードを、文学研究者の坂口博さんが解題で紹介している。

 「東京へゆくな ふるさとを創れ」と詩にうたった谷川はやがて九州を離れて上京。残った石牟礼は水俣の「下部へ、根へ」、「降りてゆく」ようにして、水俣病の実相に迫る小説『苦海浄土』を書いた。

 革命の可能性が信じられた時代を遠く離れたいま、オルグではなく思想家として、谷川の言葉を読み直してみたい。(上原佳久)=朝日新聞2022年9月17日掲載