『わたしは「ひとり新聞社」』書評 震災を経た町と向き合う
評者: 稲泉連
/ 朝⽇新聞掲載:2022年12月03日
わたしは「ひとり新聞社」 岩手県大槌町で生き、考え、伝える
著者:菊池 由貴子
出版社:亜紀書房
ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ
ISBN: 9784750517674
発売⽇: 2022/09/28
サイズ: 19cm/259p
『わたしは「ひとり新聞社」』 [著]菊池由貴子
東日本大震災の後、著者は故郷の岩手県大槌町で「大槌新聞」を一人で作り続けてきた。冒頭で自身の若い頃の記憶が語られる。病弱で入院を繰り返していた彼女は、震災を経て町と出会い直し、地域に根差すという視点を獲得していく。あたかも小さな種が芽吹き、いつしか自立していくかのように。
町への愛情や行政の施策への怒りや葛藤……。町の復興を様々な角度から見つめながら、住民との交流と「見ること・伝えること」によって培われていく記者としての力強さ。そのなかで、旧役場庁舎の解体問題や震災検証など、行政の抱える問題や地域の課題を浮き彫りにし、現実の光と影に粘り強く向き合い始める姿に迫力があった。
読んでいると、地域紙とは町における一本の止まり木なのだ、という思いを強くする。大槌町の「復興」の課題を伝え続けた貴重な記録であると同時に、メディアと地域の関係を考える上で様々な示唆を得られる一冊だ。