『牧野富太郎の植物学』
NHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとして注目される牧野富太郎。大学からの圧迫にも屈せず独自の研究を貫き、「日本植物学の父」と呼ばれるまでになった――と、巷間(こうかん)伝えられる。
田中伸幸『牧野富太郎の植物学』(NHK出版新書・1023円)は、多くの逸話に埋もれがちな、牧野の植物学者としての実像を追ったもの。1500種の植物を命名、40万点の標本を作成、と簡単にくくられてしまっているその業績を綿密に点検し、真実の姿に迫っている。この精緻(せいち)さは、自身も植物分類を専門とする著者ならではと思える。
★田中伸幸著 NHK出版新書・1023円
『元素118の新知識〈第2版〉 引いて重宝、読んでおもしろい』
元素は、全ての物質科学の基礎となる存在だ。その世界を案内する定番新書がバージョンアップした。桜井弘編著『元素118の新知識〈第2版〉 引いて重宝、読んでおもしろい』(講談社ブルーバックス・1650円)は、これまで発見された118種の元素について最新の知識が盛り込まれており、学生から研究者まで化学にかかわる者なら手元に置いておくべき一冊。なじみの深い元素から、ほとんど名前を聞く機会のない元素まで、意外な用途や新たに判明した事実がずらりと並ぶ。途中に挿入されたコラムも質が高い。こうした本が改訂を受けつつ版を重ね、長く売れ続けているのは大変に心強い。
★桜井弘編著 講談社ブルーバックス・1650円=朝日新聞2023年4月15日