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宝物を未来へ伝える研究を紹介する「正倉院のしごと」など田中大喜が選ぶ新書2点 

『正倉院のしごと』

 毎年秋に開かれる正倉院展をご覧になったことのある読者も多いことだろう。西川明彦『正倉院のしごと』(中公新書・990円)は、1300年にもわたり人の手で保管されてきた宝物を守り伝える正倉院事務所の仕事を紹介する。
 校倉(あぜくら)造りの正倉の機能性、勅封という管理制度、曝涼(ばくりょう)・点検という保存の取り組みが宝物の伝来を支えてきた。さらに近年では機器類を導入して工芸品の材質や構造を科学的に分析し、それではわからない製作技法は文献史料や現代の工芸家の技術を拠(よ)り所に調査する。「正倉院学」とも呼ぶべき学際研究が宝物を未来へ伝えていく様を示す。
★西川明彦著 中公新書・990円

『教育勅語と御真影 近代天皇制と教育』

 最近では森友学園問題で注目を集めた教育勅語。小野雅章『教育勅語と御真影(ごしんえい) 近代天皇制と教育』(講談社現代新書・1320円)は、その成立と展開を軸に近現代日本の教育の特質と問題点を丹念に析出する。
 皇国史観にもとづく国体論が教育の根源であることを説いた教育勅語は、御真影とセットで学校儀式に不可欠なアイテムとされた。戦後、両者は学校から排除されたが、国旗が御真影に代わる愛国心の象徴となり、教育勅語は一部教材としての使用が容認されている。天皇・天皇制と教育との関係は根深く、現在の問題でもある事実を突きつける。
★小野雅章著 講談社現代新書・1320円=朝日新聞2023年4月29日掲載