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「ヴィラ=ロボス」書評 ブラジルの作曲家の生涯に迫る

評者: 福嶋亮大 / 朝⽇新聞掲載:2023年06月17日
ヴィラ=ロボス ブラジルの大地に歌わせるために 著者:木許 裕介 出版社:春秋社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784393932285
発売⽇: 2023/03/23
サイズ: 20cm/459,22p

「ヴィラ=ロボス」 [著]木許裕介

 ヴィラ=ロボスと聞いてパッと曲のイメージがわくのは、かなりの音楽好きだろう。本書はこの知られざる作曲家についての力作評伝である。4歳でバッハに魅せられたリオ生まれの作曲家は、ブラジルとパリを行き来しながら、20世紀前半のモダニズム芸術運動に身を投じた。ジャン・コクトーとは対立する一方、ルービンシュタインやセゴビアとは親交を深め、1940年代にはアメリカで名声を得る。その半面で、彼はブラジルの野性を戦略的に押し立て、民族音楽を巧みに再構成し、ついにはヴァルガスの独裁政権をも利用して国家的な芸術教育を推し進めた。欧米とブラジルの音楽界をらせん状に巻き込むその生きざまを、著者は丹念に描いてゆく。
 代表作の《ブラジル風バッハ》をはじめ、ギター曲やピアノ曲に及ぶ膨大な作品を簡潔にさばく著者の分析は、現役の指揮者ならではのものだ。ボサノヴァを含め、音楽や南米に関心があれば、読んで損はない。