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オノマトペの探究を通して定説を覆す「言語の本質」 高谷幸が選ぶ新書2点 

 「現代言語学の父」ソシュールは、言語の形式と意味の結びつきは恣意(しい)的だと考えた。赤くて丸い果物をリンゴと呼ぶ必然性はないというわけだ。

『言語の本質』

 今井むつみ、秋田喜美『言語の本質』(中公新書・1056円)は、オノマトペの探究を通して、この定説とは異なる見解を示す。「ワンワン」「ブーブ」に明白なように、オノマトペは音と意味が一定程度結びついている。それは、人間の感覚や経験を反映した身体性をもつことばだ。このオノマトペを子どもが多用するということは、言語体系を理解する端緒には、基本的なことばの意味が感覚と接地する必要があることを示唆する。
 その後子どもは、仮説形成の推論様式であるアブダクションを用いてより抽象的なことばも獲得する。つまりオノマトペとアブダクションは、言語体系の習得という航海へ漕(こ)ぎ出す際の、人間固有の櫂(かい)なのだ。
★今井むつみ、秋田喜著 中公新書・1056円

『女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語』

 平野卿子『女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語』(河出新書・946円)は、「~かしら」のような女ことばの意味や効果を考察する。性別によることばの差は日本語に特徴的だという。翻訳家らしく他の言語との差異にも言及しながら、女ことばが日本社会における女性の位置と行為を規定してきた様子をアブダクションする。
★平野卿子著 河出新書・946円=朝日新聞2023年6月17日掲載